Hello! SOEJIMAです。
今回は先日の記事で紹介した『Slay the Spire』の開発者であるAnthony(アンソニー)さんに、ゲーム開発のことを聞いてみました。
このゲームの奥深さの要となったシステムの話や、たった2人でどうやって膨大なカードのバランスを取ることができたのかなど、気になることを聞いてきました。
制作者に聞いてみよう
Mega Crit Games:
アンソニーさんとCasey(ケーシー)さんの2人によって2015年に設立された開発スタジオ。今作が初のタイトルとなる。
アンソニーさん、こんにちは!
さっそくですが、まずは開発のきっかけを聞いてもいいでしょうか?
私は昔からボードゲームやカードゲームが本当に大好きでした。
特に『ドミニオン※』に代表される「デッキビルディング」というジャンルのゲームに夢中になっていたんです。
どんなカードをデッキに入れるか?その組み合わせや効果を考えるのが好きでした。
※ドミニオン:デッキ(自分の山札)を構築すること自体を遊びにしたカードゲーム。手に入れたカードの効果を使い、カードを購入・獲得してデッキに追加していきます。最終的に、勝利点カードをデッキにもっとも集めた人の勝利。2008年にアメリカで発売。以降多くのファンに愛され、数々の拡張セットも展開されています。
僕も『ドミニオン』が好きで、『Slay the Spire』を最初に見たときに「これ絶対面白いぞ」と胸が高鳴ったのを覚えています。
自分でファンサイトを運営されたり、ゲームショップの店長をしたりしていたとは……! 本当にカードゲームが大好きだったんですね。
一方、もちろんデジタルゲームも大好きで、特に「ローグライク」のジャンルを好んでプレイしていました。最近だと『Dead Cells』は素晴らしいゲームでした。
難しいけど止められない感覚は、『Slay the Spire』とも似ていると思いました。
この「ローグライク」と「デッキビルディング」は相性がいいと思っていました。
毎回異なる状況に対応することと、毎回異なるデッキを作ることは、上手く掛け合わせられそうだなと。
大学を卒業した後はしばらく普通にIT系の会社に勤めていたんですが、このアイデアを試してみたいと思っていました。そんな中、大学の同級生だったCaseyにゲーム開発に誘われました。ある程度の蓄えもできていたので、会社を辞めて2人で挑戦してみることに決めたんです。
このゲームの奥深さは、どこから?
『Slay the Spire』について、どうしても聞きたかったのがゲームの奥深さについてです。
どの部分に秘訣が隠されていますか?
一概には言えませんが……例えば1つ挙げるとすれば、私たちが「インテントシステム」と呼ぶ機能です。これは何かというと「敵の次の行動のアイコン表示」になります。
実は開発当初はこの表示はありませんでした。いわゆる従来のRPGと同様に、敵は決められた行動リストの中からランダムに選択してました。
自分の手札もランダムに配られる上に、相手の行動も読めないとなると、ユーザーはどういう方針を取るべきか、漠然としてしまうんです。もう少しユーザーに戦略性を持たせたい!ということで、敵をクリックするとその敵の行動の詳細を表示するシステムにしました。
でも、これでもダメでした。まず「ゲーム実況」に向いていないんです。
ゲーム実況を見ている人にも一緒に考えてもらいたいのですが、見ている人にとって情報が足りないので考えられないのです。
実況のことも考慮されていたんですね。
また、一つ一つの説明の分量が多いのも問題でした。複雑に感じてしまうのです。ゲーム全体を通してですが、なるべく文字は少ない方がいいのです。
なぜなら「プレイヤーが本当に考えるべきこと」に集中してもらうのが大事なのです。そうして、このアイコンと数値だけを表示させる「インテントシステム」にたどり着きました。
確かにこれが見えないと、敵の攻撃と自分の防御の差し引きの計算が立てられなくなりますよね。
プレイしていると当たり前のように感じていましたが……これがあるのと無いのとでは戦略性に大きな差がありますね。敵の行動予定が見えなくなるレリックを取るとそれがよくわかりました。
もう一つ、お聞きしたいことがあるのですが、カードの出現バランスは完全にランダムですか?
はい、そうです。自分自身がカードゲーマーなので、いつも思うことですが、決まった戦術を繰り返すようなゲームにはしたくはなかったんです。
ランダムに出現するカードの中から、状況に応じて選ぶ。常に一番いい戦略は「柔軟であること」というゲームにしたかったんです。
だから、ゲーム側で何かを誘導することはないです。プレイヤーが獲得したカードは、その後に出現するカードには関連がないようにしてます。カードのレア度によって出現する確率が決まるだけです。
たった2人で、膨大なカードのバランスを
カードゲームはなによりも「バランス」が大事ということですね。
このあたりはどう対応したのでしょうか?
3人のキャラクター、250種類以上のカード、150種類以上のアイテム、50体以上の敵、50個以上のイベント……これらすべてのバランスをとる必要があったんです。
これってきっと、大きなゲーム会社でさえも難しい課題ですが、それを2人でやるというのがチャレンジでした。
でも、自分が生粋のカードゲーマーだからわかるんです。カードゲームはバランスがとにかく大事だと。
バランスを取るには、テストプレイとそのデータ収集が欠かせません。これにはコミュニティの力に大きく助けられました。
まずは、身近な友人や家族にテスターとして参加してもらいました。さらに、『アンドロイド:ネットランナー』のフォーラムを運営していた繋がりで、そこの強豪プレイヤーたちにもテスターに参加してもらったんです。彼らはカードゲームに精通しており、ゲームの抜け穴などにも気づいてもらえるので助かりました。なにより、テスターの方たちの反応が当初から変わらず良かったことが、大きな自信にもなりました。
彼らのデータやフィードバックをもとに、1年以上はカードのバランス調整を重ね続けました。そして最終的にPCで先行配信(アーリーアクセス)をするまでには、数万回規模のテストプレイになりました。本当にテスティングに協力してくれた方には感謝しかありません。
コミュニティの熱量を保ち続ける
PCで先行配信されてからも、ゲームは更新されていきましたよね。
はい。PCでの先行配信を機に、今度はユーザーからフィードバックをもらえるようになりました。そして、どうすればユーザーがフィードバックしやすくなるか?を常に考えてきました。
なぜなら、ユーザーたちの意見に耳を傾け、それに応えることはコミュニティの熱量を高めていくからです。
具体的には、SNSを駆使してプレイヤーとの心理的距離を近づけるようにしました。TwitterやFacebookなどあらゆるツールを使いました。中でも効果的だったのが、ユーザーがフィードバックを提供するために参加できる場を用意したことです。例えば、そこでプレイヤーがバグ報告をしたら「ありがとうございます!フィードバックは〇〇番として記録されました」とボットが反応してくれるようにしました。結果的に、これで約2万件ものフィードバックをもらえることができました。
こうしたフィードバック→修正→アップデートのループを、1年間以上、ほぼ毎週行いました。
これによって製品のクオリティも向上しましたし、なによりコミュニティの熱も広がって多くの新しいユーザーにその熱が届くようになったと思います。
本当にコミュニティのサポート無しでは、このゲームは完成していなかったと思います。
コミュニティを築き一緒に作り上げていくこのプロセスこそ、このカードゲームのバランスの秘訣だったんですね。
ちなみに、アンソニーさんの思い入れのあるカードはありますか?
そうですね。「堕落」というカードは、開発を通じて大変でしたよ。実はこのカードの効果はちょっと強すぎるんです。
「堕落」と「古木の枝」というレリックが上手く合わさると、カードが使いたい放題になります。
これが対人のカードゲームだったら大問題なのですが……1人用のカードゲームですし、稀にこういうことが起きてしまうのも、ゲームの楽しみの一つだと思いあえて残してあります。
それでは最後に、メッセージをお願いします。
ユーザーのみなさんにはいろんな戦略やデッキを楽しんでもらいたいです。そしてやりこみ要素でもある「登塔モード」にも挑戦してみてくださいね!
また、今年の秋ごろにアップデートで4番目のキャラクターやレリック、カードを追加する予定です。ぜひ引き続き、こちらも楽しみにしていてください!
次のアップデートもとても楽しみです!
アンソニーさん、ありがとうございました。
それではみなさん、よいインディーライフを!
2019 MegaCrit, LLC.