「Hello! インディー」第10回 『UNDERTALE』の開発者トビーさんにインタビュー(後編)

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Hello! SOEJIMAです。今回はトビーさんのインタビューの後編です。
今回は一部がっつりネタバレも含まれますので、まだプレイされていない方は注意してください!『MOTHER2』に関する思い出話や、キャラクターの生まれた背景、開発中にボツになったアイデア、ゲームが大きく変わった瞬間についてなどお話いただきましたよ。

Toby Fox(トビー・フォックス):
『UNDERTALE』の開発者。ストーリーはもちろん、ゲームシステムやキャラクターのデザイン、そして音楽なども全てほぼ一人で開発。アメリカ在住。

トビーさんと「MOTHER」

トビーさんは影響を受けたゲームとして「MOTHER」シリーズをよく挙げられていますよね。最初の出会いはいつだったのでしょうか?

「MOTHER」シリーズとの出会いは……たしか、兄が『EarthBound』(『MOTHER2』の海外版)をプレゼントにもらったんです。クリスマスだったか、誕生日だったか……。小さい頃、その『EarthBound』をプレイしながら、出てくる単語の読み方を覚えた記憶があります。
子どもの頃の記憶でうっすら覚えているのが、暗い地下室で『EarthBound』の攻略本を読んでいたら、母に「暗いところで読むと目が悪くなるわよ」と怒られたこと。『EarthBound』の公式攻略本が、とにかくすばらしかったんです。ゲームの攻略に関する情報ももちろん載っているんですけど(そして、ときどき間違ってたりもするんですけど(笑))、粘土細工のフィギュアの写真がたくさん載っていて、それを見るのがすごく楽しかった。ゲーム内の各エリアをイメージした写真とか、そのエリアに関するウソのマメ知識なんかも載っていました。オネットの人口は「3500人とイヌ2匹」とか。英語ですけど、ネット上で無料公開されているので、ぜひ見てみてください(PDFファイル)

『MOTHER2』の攻略本。北米版ではソフトに攻略本が付属していたんです。

いつか僕も、粘土細工の写真つきの攻略本を作りたいですね。それを読んだチビっこが、「暗いところで読まないの!」とご両親に怒られるという激しくどうでもいい思い出を作ってくれたら、うれしいなあと。それだけの理由ですけど。

その攻略本読んでみたいです! 自分も小さい頃攻略本をよく読んでいたことを思い出しました。そこから「MOTHER」シリーズを通じて、非常に多くの影響を受けたんですね。

「MOTHER」から受けた影響はあまりにも大きくて、うまく説明するのは難しいんですけど……簡単に言えば、「MOTHER」のおかげで「MOTHER」のファンコミュニティに参加することになって、そこで友だちがたくさんできて、それが最終的に、自分のゲームを作ることにつながっていったんですよ。
それに、「MOTHER」って、ヘンテコなユーモアと、まっすぐ心を突いてくる場面とが共存していますよね。僕はずっと、ああいう世界観を自分の作品でも実現したいと思い続けていて。もちろん、僕がやると、あんなに洗練された仕上がりにはなりませんけどね……。
(へやじゅうに こげたパンケーキのにおいが じゅうまんした…)

フォントから生まれたキャラクター

『UNDERTALE』はその世界観はもちろん、登場キャラクターもとても独特だと思いました。例えば「サンズ」や「パビルス」が生まれた背景が知りたいです

登場キャラクターのサンズとパピルス。ふたりは兄弟。

僕の友だちに、JN Wiedleというスケルトン(ガイコツ)好きのクリエイターがいて、「Helvetica」というウェブコミックを描いているんですが、Helveticaは主人公のスケルトンの名前で、もともとは英語圏で広く使われているフォントの名称なんです。だから僕は、スケルトンのキャラクターを2人登場させて、逆にめちゃくちゃダサくてみんなに嫌われているフォントの名前をつけました。友だちをからかいたかったんです。Comic Sans とPapyrusは、アメリカのデザイナーのあいだで「とにかくダサい」と不評なフォントなんですよ。

英語版では、サンズとパピルスのセリフがそれぞれのフォントになっています。どうですか?

そういう背景があったのですね! フォントからキャラクターが生まれたとは!
あとはできれば、私の好きな「アンダイン」も…知りたいです!

「RPGには、水属性の人魚っぽいキャラがつきもの」という気がしたんですよね。でも、アンダインのキャラクターが固まったのは、「ウォーターフェル」エリアの制作を始めてからでした。当初はもっと、気品があって洗練されたキャラになると思っていたんですけど……。最初のアイデアでは、「スノーフル」エリアでサンズと遭遇する前に泉があって、そばを通ると誰かのきれいな歌声が聞こえてくるはずだったんです。それがアンダインで、先ヘ進もうとすると気づかれて、影のようなモンスターの群れをけしかけてくる。そのあとサンズと出会うので、プレイヤーはサンズも影モンスターの一味かと思うけど、実は仲間でした、という流れにしようと思っていました。

かっこいいアンダイン。

でも、最終的にできあがったアンダインには、とても満足しています!気品なんてかけらもなくなっちゃったけど、それでよかった。むしろ「いっしょにカラオケにいくと、ものすごく歌がヘタで、でも全部の曲をいっしょに歌ってくれるからすごく楽しいひと」みたいなキャラになりました。

『UNDERTALE』は曲も素晴らしいのですが、楽曲制作において一番重視していることはなんですか? また、一番思い入れのある楽曲はどれでしょうか?

いちばん重視しているのは、感情と雰囲気、それから、印象に残る曲にすることです。いちばん思い入れがあるのは、メインテーマのメロディかな。

今回コレクターズエディションに同梱されるサウンドトラックの楽譜ブックレットには、トビーさんの作曲時の思いやコメントが記載されてるんですよね。これは興味のある方にはぜひ手に取ってみてほしいです。

作曲時のコメントを見ると、またひと味違った風に聴こえてきます。

『UNDERTALE』が大きく変わった瞬間

シナリオについてもお聞きしたいです。元々の開発を始めたときから一貫してシナリオが決まっていたのか、それとも作りながら変わっていったのでしょうか?

作りながら、いろんな要素をつけ足していったので、ゲームの大半は当初の予定とまるで違うものになったと思います。そもそも、「予定」なんてもの自体、あったか怪しいですけど(笑)。でも、開発が進むにつれて、「予定どおり」に進むようになっていきました。
作りはじめの頃に思いついて、デモが完成した時点でボツにした細かいアイデアはいろいろありましたよ。例えば……

ケータイも「キャラクター」にするつもりでした。プレイヤーに話しかけてきて、友だちになる。でもそれだと、ゲーム全体にただよう「孤独感」が損なわれていたと思います。

・「いせき」エリアの最後に、山に夕日が沈んでいく、地上の世界のようなきれいなシーンを作る予定でした。その風景がパタンと倒れて、ただのダンボールの書き割りだと判明する。そこへフラウィが現れて、こちらをあざ笑いながら「そんなに簡単に出られると思った!?」と言う。このやりとりを、各エリアの終わりごとに作ろうかな、と思っていました。

・「メタトン」と結婚できるようにしようと思っていました。でも、作っていくうちに「それはないな」と思って。そもそもメタトンは、はじめはエンタメロボットという要素は薄かったんですよ。当初考えていた彼の姿は、もっと……「お子様にはふさわしくない」感じだったんです。

結婚できてたら、どんな展開になっていたんでしょうか。

というように、制作の過程で変わっていった部分はたくさんあるんですが、そのなかでも一番大きなものを挙げると、始めは「トリエル」を「にがす」選択肢はなかったんです。倒すしかなかったんですよ。でも、少し考えているうちに「いや……それは悲しすぎる!なんでトリエルが死ななきゃいけないの!?そんなの絶対間違ってる!」と思って。そのときに、「誰も死ななくていいゲームというのはどうだろう!?」と思いついたんです。それまでは、先ヘ進むために誰かを倒さざるをえない残酷なシーンがある予定でした。

「トリエル」はゲーム序盤に出会う重要なキャラクター。

なかなかいい決断だったでしょう!?変えずにそのままにしていたら、結構な駄作になっていたと思います! だから、最初に思いついたアイデアがイマイチでも、大丈夫だよ、ということ。僕からのアドバイスです!

トビーさんからメッセージ

トビーさんはインディーゲームが好きで、日本のものも含めて色々とプレイされているんですよね。

ゲームによっていろいろですけど、インディーゲーム全般に言えることは、小規模で、より的を絞った表現ができるから、制作会社などの意向に制限されない、ブッ飛んだことができるところが好きですね。それに、ゲームが好きで好きでたまらない人たちとか、ゲーム業界以外の人だからこそ作れるものだったりする。何にも縛られない、純粋な情熱と好奇心から生まれた新しい視点に出会える。大規模な大作ゲームでもそういう要素を含んだものを作ることはできると思いますが、制作会社によっては、難しいこともあると思います……。

きっと多くの開発者の方が聞いてみたいと思っているのですが、ゲーム開発&作曲のために、日ごろ意識的に行っている事などもしあれば教えてほしいです。

僕はいつも、シャワーを浴びているときにいいアイデアを思いつくので、たまにシャワーを浴びることをおすすめします。それ以外に僕からできるアドバイスは、特にないですね。僕はそんなに優秀な開発者ではないので。唯一言えるのは、ゲームを作っているときに「自分なんてダメダメだ」と感じても、大丈夫だよ、ということ。大事なのは、それでもそのゲームを完成させることです。ちゃんと達成できる現実的な目標を設定して、自分に優しくしてあげましょう。あなたの人生は、ゲームを作ることより大切なんですから

この言葉はほかの開発者にも響くかもしれませんね……。それでは最後に、日本のみなさんにコメントをお願いします。

ホント『Celeste』はいいゲーム! ぜひ、やってみてください!

ありがとうございます! ……じゃなくて!

あ、そうか……これは僕の記事でしたね……。
もしSwitchに育てられている人がいたら、僕のゲームも、生きるすべを教えてくれるオオカミの役目を果たすといいな、と思います。まあ、実際はオオカミじゃなくて、白い小犬に育てられることになると思うので、ためになることは何も教われないかもしれないけど……。でも、遠吠えの声はかわいいですよ?
(こげたパンケーキの においがする……)あ、それは食べないで。
最後に、Nintendo Switchを購入された皆様、そして、『UNDERTALE』に興味を持ってくださっている皆様、ありがとうございます。それから、もう『UNDERTALE』を購入したのに、なぜかまた買うつもりでいる皆様……あなたは、オオカミサバイバルのMVPです! 本当にありがとうございます!

トビーさんとパッケージ

トビーさんありがとうございました! そんな『UNDERTALE』はいよいよ明日発売です! そして新しい紹介映像も届きましたので、こちらもぜひ一度ご覧くださいね。

それではみなさん、よいインディーライフを!


UNDERTALE ©Toby Fox 2015-2018. All rights reserved.

edited by : SOEJIMA・BOKU
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