さて、ここからは、『ピクミン4』の開発メンバーの皆さんにお話を伺っていきたいと思います。まずは今作での皆さんの役割をお伺いできますか。
僕は『ピクミン』~『ピクミン3』から引き続き参加していますが
方向性の決定や、ゲームデザイン・レベルデザイン全般、 それからゲームシステムのベースのプログラム設計などを担当しました。 レストランでいう総料理長みたいなもんですね。
プランニングディレクターの平向(ひらむき)です。
レベルデザイン全般と、原生生物の仕様、 それからカットシーンやスクリプトなど ストーリー周りを担当しました。
実はシリーズにはずっと関わっていて、 1作目ではコントローラーの振動のプログラムをつくっていて 2作目は地下洞窟のレベルデザイン、 3作目からは今作と大体同じような感じで関わっています。
プランニングディレクターの的場です。
おもにUIやオブジェクトの仕組みと オタカラを担当しました。
それから、レベルデザインも 神門さん、平向さんと分担でやっていました。
2作目のときは地下洞窟の制作を、 3作目のときは対戦モードの制作を担当していました。
サウンドディレクターの木田です。
BGMやSE※8の方向性をそれぞれの担当スタッフと相談してまとめたり、 音をどのように鳴らすのかという仕組みの部分を検討したりしました。
シリーズでは、『ピクミン3 デラックス』※9から関わっています。
※8サウンドエフェクト。ゲーム中に出されるさまざまな効果音のこと。
※92020年10月発売のNintendo Switch用ソフト。2013年7月発売のWii U用ソフト『ピクミン3』の内容に追加ストーリーや難易度選択などが加えられた。
ありがとうございます。宮本さんはプロデューサーとして、どのように『ピクミン4』に関わられたんですか。
「ピクミン」シリーズとしての特徴がおさえられているか、Pikmin Bloom』※10などほかの展開もあるので 本流のタイトルとしてのレベルに達しているかを チェックするために入っていました。
でも、僕の発言は影響力が大きいので、 ちょっとでも変なことを言うとみんなが右往左往してしまって。
「効果音が・・・」って言っただけで、 「効果音ですか!? どこですか!!!」って。 ウッカリつぶやけない感じで(笑)。
※10Nianticが配信するスマートフォン向けアプリ。いろんなところへ出かけると、位置情報をもとにそれぞれの場所にちなんだピクミンの苗が見つかり、苗をセットして歩けばピクミンが育ち、またそのピクミンと一緒に歩くことで花を咲かせることができる、「歩くことが楽しくなる」アプリ。
確かに、「この音のどういうところが気になりますか?
どう直すとイメージ通りですかね?」とか、 詳しく聞かせていただいたりしましたね(笑)。僕らみたいに昔から一緒にやってる人は
慣れてるんですけどね(笑)。本流のシリーズとして4作目になるわけですが、ストーリーは過去作とつながりがあるのでしょうか。
今作も、キャプテン・オリマーが未知の惑星に
ところが、そのレスキュー隊までもが 「二重遭難」してしまって・・・。
新人隊員のプレイヤーが みんなの救助にむかう、というのがストーリーです。
自分自身が「新人隊員」としてゲームに登場することで ピクミンを初めてプレイされる方にも この世界に感情移入してもらいやすくなるように意識しました。
ですので、過去作を知らない方でも大丈夫です。
もちろん、過去作を知っている方には より楽しめるようになっていますので、安心してください。
物語の時系列に関しては、ご想像にお任せします(笑)。
僕としては、『ピクミン』~『ピクミン3』まで
シリーズで3作品やってきて、 「こんなに面白いのになぜもっと爆発的に売れないんだろう?」 「なんで難しいと思われてしまうんだろう?」 っていうのは、ずっと思ってたんですよね。たしかに、ピクミンってかわいいキャラクターの割に、ちょっと難しいゲームと思われている方は多いように思います。選択を誤ると死んでしまったりしますし、ピクミンたちを失う恐怖というのもあるかもしれません。
「死ぬ」というところに「難しさ」を感じるんですね。
でもね、僕は「死ぬこと」こそがピクミンの良さだと思ってる。
取り返しがつかないから、そうならないようにやり方を考える。
ピクミンが死なないように、うまいダンドリを探す。
それがピクミンのゲームの個性だと思うんだよね。
それに、ピクミンの「難しさ」というのは きっと2種類あって、それは 「操作の難しさ」と「ゲームの深さ」だと思うんです。
これらを「難しさ」ではなく「面白さ」として伝えるには どうしたらいいんだろう、というのはずっと考えていましたね。
そうですね。
どうすればより多くの方に遊んでもらえるんだろう、 というのは1作目~3作目の反応を見ていて 僕もかなり悩みました。
開発当初は遊びやすさを優先して ゲームが苦手な方でも遊べるくらいの簡単操作の実験や カメラやAIの改良など、いろんな検証をしていました。
ただそれだけではなく、僕の中では1作目のような遊びじゃないと、 つまり繰り返す中で効率をあげていく「ダンドリの遊び」じゃないと、 「ピクミン」ではないような気がしていて・・・。
やはり開発チームの中では、1作目が「ピクミン」の原点だということが、明確だったんですね。
『ピクミン4』をできるだけ多くの方に遊んでもらいたいけど、
1作目から2作目で「深い遊び」から「長い遊び」に変えて、 3作目で1作目寄りに戻したわけだけど、 よく考えたら両方を残す道もあるよなあって思ったわけです。
じゃあ、ピクミンの面白さの原点である「ゲームの深さ」は残しつつ 「操作の難しさ」を機能面でサポートしていけばいいんじゃないの、 ということになったんだよね。
それで、さまざまなサポート機能を充実させることで
今回はダンドリ要素もしっかり入れつつ 日数制限もないので、「深く」も「長く」も遊べるようにって。
つまり、1作目と2作目のいいとこどりです(笑)。
なるほど。そこでお訊きしたいのが、新しく登場したキャラクター、宇宙犬の「オッチン」についてです。ダンドリのやり方にも大きく関わってくると思うのですが、どのようにして生まれたのでしょうか。
さきほど宮本さんが「爆発的には売れてない」と
機能面のサポートという観点でも、「目を引く」という観点でも。
それで、最初に思いついたのが 「逆に原生生物のチャッピーをプレイヤーが操作してピクミンを バクバク食べたらおもしろいんじゃないか」という案で。
簡単操作で爽快感もあるし、 なんといっても絵的にインパクトがある。
ええ!? でも、チャッピーを操作っていうのも、確かにインパクトがありますね。
そこから派生して、ストーリー内でいろんな原生生物に
最終的にプレイヤーと切り替えられるような 相棒的な生き物としてオッチンを追加することにしました。
ピクミンを投げたり、呼んだりという「操作プレイヤー」としての性能を持たせて、 さらにピクミン10匹分と同等の力をもつ 「強力ピクミン」的な位置づけでも使えるようにして。
それが「犬」になった理由は何かあったんですか。
犬・・・というか、地球にいる犬とはちょっと違うので
また、神門さんの言うように、「プレイヤーの相棒」として、 ピクミンと一緒に犬に乗ったり、訓練すればいろんなことを覚えて、 操作性もアップする。
つまり、ひとつのアイデアで2つのことを 同時に解決することができたんです。
「良いアイデアは複数のことを一気に解決する」ですね。
一方で、強力なお助けキャラということは理解するのですが、それって綿密に組み立てられたダンドリの仕掛けが崩れてしまったりはしませんか?
確かに最初は、原生生物と戦うのにオッチンがいると
でも、プレイヤーとオッチンを同時に操作したり、 それぞれ違う役割を与えたりと、 戦略性が深まる部分もあるんですよね。
「先にオッチンに障害物を壊してもらおうか」、 「いや、ここはピクミンたちにまかせて オッチンは原生生物と戦わせておこうか」、みたいな。
今回のストーリーは「二重遭難」ということで
救助すべき人がいっぱいいるので、 救助犬という設定が活きてたよね。そうですね。
ピクミンは戦うゲームというだけではなくて 「探して集める」というゲームでもあるので うまくバランスが整ったと思います。
なるほど。では新しいキャラクターという意味で、新しく登場したピクミンについては、いかがでしょうか? 使える能力のバリエーションが増えるようですが。
新たに登場する「氷ピクミン」は ものを凍らせる力があるんですけど これはマリオクラブさん※11のアンケートで 原生生物を倒すのが苦手な方に人気でした。
水場を原生生物ごと凍らせたり、 飛んでいる原生生物を凍らせれば、 落ちてパリーンと割れたり。
※11マリオクラブ株式会社。ゲームソフトの品質を高めるためのデバッグやモニターテストを手がける任天堂のグループ会社。
それから、「ヒカリピクミン」は 洞窟や、新しく追加された夜の探索で 使えるピクミンなのですが、 ほとんどすべての属性に耐性があったり、 また仕事を終えると呼び戻さなくても ワープして自分の元へ戻ってくるので、探索の心強い味方です。
それから、これもまた「遊びやすいポイント」なのですが・・・
ヒカリピクミンは死ぬことがないので、 もったいぶらずに、どんどん使えるピクミンになっています。
それは思い切った性能ですね。
新しいピクミンも魅力的ですが、
全体のボリュームもしっかり増やしているので、 どのピクミンから使って効率よくダンドリするのか、 戦略の幅はかなり広くなっています。
なるほど。オッチンや新しいピクミンの登場で遊びやすさもアップしつつ、同時にダンドリの戦略性をより深める役割も担っている、ということですね。
はい。
「キャラクターがかわいいから、かわいいゲームにすればいいのに」 って言われることがあるんですけど、 僕はそれは違うと思っていて。
ピクミン以外にもかわいいキャラのゲームは いっぱいあるから、それだけでは勝てないと思うんですよね。
だから、遊びやすい機能を用意して間口を広くしたうえで
「ダンドリ」の面白さが自然と浸透することの方が 大事だと思ったんですよね。ダンドリの面白さが自然と浸透する、ですか。その自然と浸透するという部分にはどんな工夫があるのでしょうか。
神門さんが最初につくられたコンセプト資料に
じっくり長く遊べるストーリーモードの中に、 深いダンドリの遊びの、対戦モードやミッションモードを 溶け込ませたんです。
『ピクミン3』の「ミッションモード」は、
これが「ダンドリの面白さ」をわかってもらうのに やっぱり一番だと思ったんです。
先ほど日野さんが「ミッションモード」を 「本編がうまくクリアできるようになるモード」って 説明してくれていたんですけど、 実は「知る人ぞ知る通(つう)向けのモード」みたいに思われてて・・・。
このモードを今作では「うまくダンドリして時間を短縮していくのが楽しい」 と思ってもらえるように、ストーリーの中に組み込んだんです。
今回、「ミッションモード」は「ダンドリチャレンジ」と名前を変えて
それから2、3作目にあった対戦モードは プレイヤーが2人いないと遊べなかったのですが 今作ではCPU対戦を導入して ひとりでも遊べるようにしています。
名前も「ダンドリバトル」という呼び方にして、 これもストーリーの中で自然にクリアできるよう 溶け込ませています。
ストーリー中にあらわれる 「ダンドリチャレンジ」と「ダンドリバトル」で 自然とダンドリ体質になってもらおうという作戦です(笑)。
今回って、やり直し(リトライ)もできるんでしょ?
はい。
1作目では30日間という長いスパンで、 また3作目では食料が尽きる3~4日間で、 ダンドリを繰り返すような遊びになっていました。
今回は「時間を巻き戻す」という機能があって その場その場で巻き戻して、 やり直しができるようになっています。
これまでは1日のどの段階でも朝にしか戻れなかったんですが、 「間違えた!」と思ったら数分前でも戻れるようになったので 「次はこうしてみよう」という実験が短時間でやりやすくなったと思います。
いつでも巻き戻せるというのは、ダンドリにちょっと苦手意識のある人にはありがたい機能ですね。
これまでは
朝まで戻って全部やり直しかぁ・・・」 みたいなことも起こりがちだったんです。
そうなるとやっぱり悲しいので、 今回の巻き戻しはそれをサポートできる仕組みになっています。
巻き戻し機能をうまく使えば、どうすれば短時間でダンドリができるかも見えてきそうですね。
なので、ゲーム中でも、ことあるごとに
もちろん、シビアな世界が好きな方は使わなくても構いません。
それから、オッチンにスキルを覚えさせたり、 「ソウビ」や「アイテム」をカイハツすれば、 ダンドリでできることも増えます。
最初から完全に進め方が決まっているダンドリというのはなくて、 お客さま自身がゲームを進めるごとにできることを増やしながら、 自然にダンドリのレベルも上がっていくようになっています。
ピクミンって競争の遊びじゃないんですよ。
「セコいやり方でハイスコア出して、ずるい!」とかじゃない。
自分の中で目標を決めて、 それをどんどん乗り越えていくのが楽しい遊びなんです。
自分を研ぎ澄ましていく遊びということなんですね。遠慮なく巻き戻しながら、より良いダンドリの形をつくっていけばいいという。
そう、何度もやり直して「シェイプアップ」です(笑)。
(笑)。
ところで、ダンドリの自由度が広がることで、お客さまの遊ばれ方を無数に予測しなければならないと思うのですが、そういうつくり方をするとデバッグ※12が難しいといった心配はなかったのでしょうか?
※12品質向上のため、開発中のソフトを実際にプレイし、プログラムの不具合等を調査すること。
開発チームとしては
「お客さまが工夫してやったことを、とことん活かしてあげたい」 という考えがあったので、 最初からそれに対応できるつくりを目指していました。ゼルダの「アタリマエを見直す」じゃないですが、
それがダンドリの要素にもなっていて、 「ここは氷ピクミンがいるほうが効率よくできそうだな」 とか、自由に思ったことを試せるようにしました。
お客さまが思うままに試して、ダンドリの幅を増やしていくことを楽しんでもらいたいということですよね。クリアの仕方自体をお客さまにゆだねる、というか。
ええ。それが案外「ダンドリの遊び」と相性がいいんですよね。
でも、その分ボリュームも出す必要があって・・・
今作のボリュームは回収するものの数で比べると 「1、2、3を足した」ものより多くなっています(笑)。
僕は今作、デバッグでストーリーモードをずっとやって、
あれ、なんだかこの前の青沼さんみたいなことをが・・・(笑)。 言ってしまいました
(笑)。
ダンドリの仕方もお客さまに委ねつつ、どんな方法をとってもクリアに近づけるつくりになっているのはありがたいですね。