さて、ここまで『Wii Sports』の続編として、体感操作の完成度を追求されたお話をお伺いしてきたのですが、操作以外において、シリーズ最新作として新しくしたことを伺ってもよろしいでしょうか。
やっぱり、お客さまに「イマドキの新しい商品を買った」と
過去作の単純な移植や、リメイクにはしたくなかったんです。
新しい種目を入れる、というのもそうなんですけど、
デザインをお願いしている森井さんに 「どうしたら新しく見えるか」という相談を たくさんしました。『Wii Sports』の時はMii※6が印象的でしたけど、今回はそれに加えて新しいキャラクターが登場していますよね。これらのキャラクターが見た目の新しさという部分で、工夫をされた部分になるのでしょうか。
※6「Wii」で実装された、りんかく・目・髪型などいろいろな顔のパーツを組み合わせて似顔絵キャラクターをつくることのできるシステム。『Wii Sports』シリーズでは各種目を、自分が作ったMiiでプレイすることができる。
仕切り直しになる前から、
それこそ最初は『Wii Sports』のMiiと同じ系統の、 腕の表現がない、コロンとした丸みのあるキャラクターも提案してみました。
他にも大学対抗スポーツのようなイメージで、 こんな感じの学生キャラを作ってみたり・・・
それから、一番振り切ったやつで、
ロボットみたいなキャラもいましたね(笑)。プロジェクトが仕切り直しになり、
「世界一誘いやすい体感ゲーム」で再出発すると言われたころに 「ここまで振り切る可能性は、もう本当にないですか?」と 提案しました(笑)。ロボットの上に乗っているのがプレイヤーですが、
こいつがボウリングをするんです。
えっ、これ、ロボットを操縦するんですか。
そうそう、このロボットを操作して、
あと、このボウリング場どれだけでかいんだよ、みたいな(笑)。
ロボット案は最初みんなノリノリで、
でも実際画面に出て、動かしてみたら、 みんな「シーン・・・」って感じでした。
(笑)。
これだと「ロボットを操作する」という遊びになっちゃうんですよね。
プレイヤーが操作して、
間に何段階もあるんですよ。
確かに、体感操作の完成度を高めたはずが、違う遊びの方向に・・・。
ということで、結果的に、ヒトに近いデザインになりました。
ただ、『Wii Sports』の時のMiiって、腕の表現がないんですよ。
球体が手として認識されていて、 少々遠い球でも手が飛んで行って、打ち返すようなデザインで。
それでも当時の解像度で、あのキャラなら不自然じゃなかった。
でも現在のゲーム機の表現に落とし込むのは難しいだろうなあ、 と思っていました。
それに・・・きっとお客さまの思い出の中では、 Miiに腕がついてるような気がしたんです。
それで腕のついたスポーツメイツになったんですが・・・
おお、おしゃれな服も着て、随分と変わりましたね。
ええ。でも、これがまた、大変でした。
『Wii Sports』を作っていた当初、Miiの動きは 実はアニメーションでいうと30種類ぐらいのモーションでできていたんです。
走る、ラケットを振る、サーブを打つ・・・という感じで約30個。
でも、スポーツメイツで同じ動きを作ってみると 最終的には650以上のモーションになってしまったんです。
650? なぜそんなに増えてしまうのでしょう。
腕がつながっていると、どういう角度で打ち返すのか、
それが歩いているパターン、走っているパターン・・・
どんどん作業量が増えていって(笑)。
プログラマーとアニメーターにはかなり頑張ってもらいました。
でもその分、やっぱりいいものにはなったと思います。
体感操作の結果が直感的に感じられるように、キャラクターの自然なモーションを突き詰めたということですね。ところで、各競技をプレイする舞台のデザインはいかがですか。こちらも今回新しくなったようですが。
今回の舞台のスポッコスクエアは、
舞台デザインもキャラクターと同様、いろいろ試しました。
さっき大学生キャラの案をお話ししたと思うんですけど、 それこそ大学対抗試合のようなものだったり、 古代ギリシャの五輪競技風、というのもありました。
プロの試合のような、大観衆が詰めかけるスタジアムを 実際に試作してもらったりもしました。
でも、どうしても今作のプレイヤーの気持ちとズレがある気がして・・・。
その感覚、山下さんが
「地続き感」って言葉にしていましたよね。「地続き感」ですか? それは現実世界とゲームの中の世界の・・・?
どちらかというと、気持ちの地続き感、というか。
自分たちが実際に遊びとしてスポーツをする感覚に もっと近いほうがいいなと。
日々の暮らしの延長線上にあるような感じです。
このゲームって、難しい操作テクニックは必要なくて、 「ちょっとコントローラー貸して」「ちょっと私にもやらせて」 っていう感覚で遊ぶようなものだと思うんです。
でも、「ちょっと貸して」と気軽にコントローラーを握ったつもりが、 急に大観衆の前に連れ出されて プロ並みの応援をされるようなシチュエーションで迎えられたら、 ちょっと感覚にズレがありますよね。
それよりも、もっと気軽に立ち寄れるスポーツジム、 それもちょっとオシャレな、誰もが足を運びたくなるような施設がいいのでは? ということで、こんなデザインが出てきました。
これは、港町の倉庫街をリノベーションして作られた場所なんです。
生活の一部にあっても不思議ではない、 でも生活感がありすぎず、「あったらいいな」と思えるような施設です。
それから、「一人で行っても、みんなで行っても楽しい場所」 ということも意識していました。
『Wii Sports』は家族や友人とリビングに集まって みんなで遊ぶイメージが強かったと思います。
でも今作では、みんなで遊ぶのはもちろん、 ひとりでオンライン※7を楽しむこともできますので、 そういう遊び方をするときのテンションに合わせられることも 大切にしていました。
※7オンライン機能のご利用には「Nintendo Switch Online」(有料)への加入が必要です。
このデザインが出てきてから、
ああ、こういう場所でプレイするスポーツを作るんや、と。 納得感がありました。
こういうデザインの方向性が見えると、チームとしてもまとまってくる感じなんですね。
自然にプレイに入れるような雰囲気もありながら、
新しいものに見せようとして、 ああでもない、こうでもない、と長い時間をかけて 本当にたくさんの案を出しましたが、 決して無駄な時間ではなかったと思っています。
採用されなかった案もすべて、 今のデザインへたどり着くのに必然的だったというか・・・
体感操作で誰もが入りやすい世界観を作るうえで、 「ロボではないよなあ、古代ギリシャでもないよなあ」 と、いろんな要素がそぎ落とされて、 磨かれていった気がします。
では、サウンド面ではいかがでしょうか。何か新しい試みはありましたか。
サウンドは、新しいことをしなきゃと思いつつも・・・
『Wii Sports』シリーズのサウンドは、 体感操作にまつわる音が「気持ち良い」ことはもちろん、 BGMや環境音によってスポーティーな雰囲気が うまく演出されていて・・・ 本当にすごく良くできていたんです。
そこから10年以上経って、もちろんデータ容量が当時より増えて、 音の解像度も上がっていて・・・というのはあるんですけど それ以上に何か新しいところを見せなきゃ、というのもあって。
何ができるんだろう、と模索していました。
大学キャラやロボットの案が出ているのも見てはいたんですよね。
はい。
このゲームはまず何よりも体感操作が大事なので、 そこに入れる要素として、大学やロボットだとあまり変わった特徴を 出せないような気がしていたんです。
でも、このスポッコスクエアのデザインが出てきて、 ピースが埋まった感じがありました。
ロボットだと作る音も変わってきますよね。
ええ、そうなると「ガシャッ、ガシャッ」という、やかましい感じで。
体感操作のゲームなのに、音の面でどうしたらいいのか!と思って(笑)。
(笑)。
でも、先ほど岡根さんもこのデザインが出てきてから
自分がお客さんとしてこの施設に行ったとき、 どんな音があると嬉しいかな、と考えることができたので。
新しいサウンド、というと、今回はプレイ中にBGMが流れていますよね。
はい。BGMの表現について検討する時にも、
動画過去作のプレイ中シーンでは 基本的にBGMが設定されていない
のですが、 それはそれで真剣勝負な試合の緊張感を出すのに 効果的だったと思います。
それに、BGMをなくすことで体感操作のSEが引き立つので、 そんな意図もあったのではないかと。
でも、この場所で「気軽に遊ぶ」というのに、 BGMがないというのはありえないよなあ、と思って。
BGMがあると楽しい、というだけでなく、それが「自然さ」を演出しているんですね。
はい。
そのうえで動画SEとのバランスをとって、 本当にこの施設で遊んでいる雰囲気を、音で作りました。
さきほど「ひとりで遊ぶ」ということを視野に入れて、 というお話がありましたが、 それもBGMがあるのとないのでは、かなり印象が変わると思います。
音の密度が上がることで、ひとりで繰り返し遊びやすくなりました。
体感操作だけでなく、デザインも、サウンドも、
あまりにもかけ離れていると、気持ちが置いてけぼりになってしまうんです。
そうならないように、気持ちが地続きになるように、 みなさんに技術で支えてもらった感じです。
なるほど、お客さまからすると、違和感がない部分なので、あまり着目されない部分かもしれませんが、そういうところにこそ、細かなこだわりがあるんですね。
そうですね。
ここで言ってしまうとカッコ悪いんですけど・・・ 気づかれないのがいい、と思っています(笑)。
派手さを競うゲームではないので、 「このゲームは、ここがよくできている!」 と言われてしまうと「負け」なんです。
だから全てにおいて、気持ちの地続き感があって、 自然に遊んでいただけることを大切にしました。