みなさん、こんにちは! 京都在住ライターの左尾昭典です。
アニメーションの『スターフォックス ゼロ ザ・バトル・ビギンズ』のプロジェクトが、最初は宮本さんひとりだけで動いていたというのは驚きでしたよね。でも、アニメ完成の10か月前には、あしゅらさんたち3人の精鋭メンバーも加わり、“四人衆”を結成!(やとわれ遊撃隊と同じ人数です。) そのあとは破竹の勢いで、アニメの制作が進んでいくと思いきや、じつはそうでもなかったようなんです。
それから今回は、アニメならではの表現についても聞きました。これを読めば、すでにアニメをご覧になった方でも、もう1回見たくなると思いますよ。それでは出撃!
アニメならではのストーリーと表現
「ゲームの流れにそったものに」
宮本さんのほかにメンバーが3人加わって、どういう方向に進んでいったんですか? あしゅらさんは「ものごとがそう簡単に進むわけがない」とおっしゃっていましたが。
宮本
まず、この4人で話し合って、もう一度、脚本を書き直してもらうことにしました。今回のゲームの特徴とか、登場するキャラクターの個性とか、いろんな要素を積み上げていって、脚本に盛り込んでもらうことにしたんです。ところが上がってきた脚本を読んだ他の3人は、「このプロットは、あの映画にそっくりですよね」とか言うんです。いろんな作品を知りすぎているので、汚れてるんですね、こころが(笑)。
一同
(笑)
宮本
もっと純粋に評価すればいいのに、と思いつつも、僕はその分野については弱いので、頼もしいなと思うところもあって・・・。
あしゅら
やっぱりどうしてもどこかの物語の構成に似てくるんですよね。それこそ吉本新喜劇みたいなことを『スターフォックス』の世界観のなかでやったりとか、ハードコアSF風であったりとか・・・。
宮本
そこで、方針を大きく変えることにしました。面白いエピソードを新規に作るのではなく、ゲームの中の壮大な物語を背景にしつつも、ゲームを遊ぶ流れで組み立てようと。そのほうが、アニメを見る人にもわかりやすい、ということになったんです。
今村
そのように「ゲームの流れにそったものに」という方針が決まり、ゲームの中身をいちばん知ってるのは、われわれ任天堂サイドの人間で、その時点ではゲームの開発もかなり進んでいて、何が登場するのかもよくわかっていたので、僕がストーリーを書く事にしました。出来るだけ詳細に書いて、それが脚本を書くときの参考になればいいと思ったんですね。
宮本
今村はね、すごく仕事が早いんです。絵を描くのも早いし、字を書くのも早いんです。けど、コンピュータを使うと遅いんです(笑)。
今村
最後のひとことは余計です(笑)。
石川
(笑)
高野
そのストーリー原稿が3日くらいで完成して、それを中武さんたちに送ったんですよね。
中武
はい。それを脚本家さん達に見せて、話を広げてもらって、脚本にまとめてくれたんですけど、それを読んだ今村さんが、また絵コンテを・・・(笑)。
今村
はい。やっぱり脚本は文字だけで書かれているので、絵づくりを統一できないと思ったんです。そこで、僕が絵コンテを描くことにしたんですけど、それは8時間で仕上げました。
あしゅら
やっぱり仕事が早い(笑)。
浅野
それがドカンと送られてきましたよね。
中武
そう、ドカンと(笑)。
今村
ただ、絵コンテを描くのは浅野監督のお仕事なので、ちょっと差し出がましいかな、とも思ったんですけど、そこからイメージをふくらませてもらえればと。
浅野
すごく助かりました。
その絵コンテを描いたのはいつごろだったんですか?
今村
去年の9月か10月です。
ということは、このプロジェクトに合流して、3、4か月たってるんですね。
石川
そう。最初はローギアでゆっくり進んでいたのが、いきなりトップギアに入って、そこからの突っ走りかたがすごかったんです。
ペパー将軍の匂いをめぐって
ここでストーリーの話をお聞きしますが、アニメでは、ペパー将軍の毛玉でつくられたお守りが物語のキーになっていますよね。
宮本
そうです。それがゲームのなかにはない、唯一の要素なんです。
そのアイデアは今村さんが考えたそうですね。
今村
はい。ゲームの要素がまずあって、アニメではそれと対峙できるくらいのアイデアを考えようと思いました。そもそも『スターフォックス』の魅力って何かと言うと、動物たちがSFをけっこうマジメにやっているところなので、獣ならではの要素を押し出したいと思ったんです。
ただ僕は今回、ゲームの仕上げにはあまり関わっていなんです。そこで実際にプレイしてみると、最初のコーネリアのステージで、ペパー将軍がたくさんの敵・・・カニのような形のストライダーに襲われそうになりますけど、そのとき彼が「狙いは私だ」と言うので・・・「えっ、なんで?」と(笑)。
一同
(笑)
今村
「どうしてペパー将軍だけが狙われるの?」って。でも、それを逆手にとれば、おもしろい話になるとも思いました。そこで、ストライダーはペパー将軍の匂いを追っているという設定にして、さらにペッピーとペパー将軍を盟友のような関係にすれば、毛玉をお守りとして持たせてもいいかなと・・・。
でも、盟友の毛玉をお守りにするなんて、ふつうないですよね(笑)。
あしゅら
だから、ファルコが「気色わりぃ」と言ってるじゃないですか(笑)。
一同
(笑)
浅野
匂いに関するエピソードはまだあって、ペパー将軍がお掃除ロボに閉じ込められますけど、それって宮本さんが考えたアイデアなんですよね。
宮本
はい。ペパー将軍に匂いがあるから、という脚本でずっと進んでいたんですけど、それってひとつのネタなので、もう少し厚みがほしいと思ったんです。そもそもペパー将軍ってエライ人でしょう。そんなエライ人が、緊急事態になったときに粗末に扱われるのもおもしろいかなと。そこで、どうすればいいかな、と考えて、「ああ、ゴミ箱に放り込まれるのがいちばんや」と。
一同
(笑)
宮本
ゴミ箱に入れれば、匂いもまぎれるし、と思って提案したら、「司令室にゴミ箱が置いてあるんですか?」ってツッコミが入ったんです(笑)。
あしゅら
SF映画なんかを見ても、ゴミ箱なんか置いてないですよね、ふつうは(笑)。
今村
そこであしゅらさんにデザインをお願いしたら・・・。
宮本
ほうきで掃くお掃除ロボットの絵があがってきて・・・僕は、「もうちょっとルンバな感じにならないの?」って思ったんですけど・・・。
あしゅら
ルンバだと、ペパー将軍を放り込めないですからね(笑)。
一同
(笑)
アニメーションならではの表現を
オレンジさんが制作したアニメならではの表現で、「ここに注目」というのはどんなところですか?
中武
たくさんあるんですけど・・・たとえば母船のグレートフォックス内で、ペッピーに「こらー!」と怒鳴られるシーンがありますよね。3度目に怒られたときにフォックスとファルコの2人が、怒鳴り声にあわせて、ぶるぶるぶるってなるんですけど、「うまいなあ、ここ」って思いました。
石川
あそこはうまかったですね。
あしゅら
あそこは絵コンテでは、ビリビリ!と書いてるから、どうなるのかな、と思ってたんです。そしたら、すごくピッタリの表現で。
高野
そこは、井野元さんの判断でつくったんですか?
井野元
絵コンテを見て、監督に確認しました。(身体を傾けて、ぶるぶるふるわせながら)「こんな感じですか」って(笑)。
あしゅら
あの感じ、そのままじゃないですか(笑)。
一同
(笑)
あしゅら
で、スターフォックスのチームが出撃するときにチューブのなかに入りますけど、空中に浮かんだ帽子をスリッピーがキャッチするシーンもいいですよね。
中武
ああ、あれもよかったですね。
宮本
あれって、けっこう終盤に入ったんですよね。「あ、こういうこと、してる」って。僕、大好きなんです、あのような表現は。
あしゅら
でも、あのシーンは浅野監督の絵コンテにはなかったですよね。
井野元
はい。勝手につくっちゃいました(笑)。というのも、フォックスたちが連続してチューブのなかに飛び込んでいきますけど、それだけだと単調かな、と思ったんです。そこで帽子のシーンを入れたんですけど、リテイクは80パーセント以上、来ると思っていました。ところがそのまま通りまして(笑)。
中武
リテイクなんてありえないでしょう(笑)。
井野元
ありがとうございます(笑)。
中武
リテイクと言えば、チューブを滑って、そのあとアーウィンに乗りますけど、スリッピーの乗りかたに対して、宮本さんからリテイクが入りましたよね。ギャグのリテイクが(笑)。
浅野
そうそう。スリッピーは最初、お尻からアーウィンの座席に落ちるだけだったんですよね。すると宮本さんが、「カエルならではの動きを入れてください」と。搭乗に失敗したように見せておいて、そのあとジャンプで戻ってから「なーんてね」と言わせたいと。
高野
そのセリフは、アフレコのときもこだわっていましたからね。
宮本
あれはギャグというよりも、パロディなんです。あのようにチューブをくぐって、戦闘機に乗るというのは、既存のSFものでたくさん表現されているので、それをそっくりそのままやったら、すごくかっこ悪いんですよ。そこで、フォックスは宙返りしてかっこよく乗り、ペッピーは逆さまに落ちてきて、最後のカエルはどうするか・・・と。
あしゅら
カエルだから、ジャンプして戻ってきて・・・。
宮本
「なーーーんてね」って言うと(笑)。そのような表現をすることで、パロディを超えて、『スターフォックス』オリジナルの表現になると思ったんです。マジメな話をするとそうなんですけど、“ギャグを入れる係”でもあったんですね、今回の僕は(笑)。
「これが入ったら、もっとよくなるんやないの」
浅野
でも、宮本さんのリテイクのなかでも、空中戦を超えるものはないですよね。
中武
あれは戦慄が走りましたねえ・・・(笑)。
浅野
戦慄が走りましたねえ・・・(笑)。
井野元
本当に。制作もかなり後半に入っていましたし。
あしゅら
「こっちに戻ってきてどーする!」っていうやつですね(笑)。
一同
(笑)
あのう・・・「戦慄が走った」と言われても、まったく意味がわからないんですけど、どういうことなんですか?
今村
空中戦で、4機の追尾ミサイルにフォックスが追われるシーンがありますよね。フォックスはそれを宙返りでかわして、撃墜するんですが、宮本さんがその動画を見ながら・・・。
あしゅら
「敵はキツネどもだー。こっちに戻ってきてどーする!」というセリフをどうしても入れたいと言うんです。
高野
しかも、空中戦のシーンはこれで決まり、という段階まで進んでいて、本当に最後の最後になって「これ、入れよう」と言ったんです。
宮本
いやいや。「これが入ったら、もっとよくなるんやないの」ということだったでしょ(笑)。
一同
(笑)
宮本
その時点では、音声収録が終わってたんですけど、幸い、ゲーム用に録っていた音声がいっぱいあったので・・・「こっちに戻ってきてどーする!」というセリフを使って「絵のほうでも対応できないでしょうか」と。
で、ミサイルを誘導して、敵にぶつけるというのはゲームの隠しネタなんです。でも、それをアニメで表現することで、「ゲーム攻略ヒントアニメ」のようになるのでいいんじゃないかな、と考えたんです。幸い4つの追撃ミサイルがあったので、そのひとつを撃墜し損ねたことにして、フォックスのあとをついてきたミサイルを敵戦艦にぶつけて、「こっちに戻ってきてどーする!」と言わせましょうと・・・というリテイクを・・・初めて・・・制作中盤に(笑)。
浅野
初めて、ですか?
中武
中盤、ですか?
一同
(笑)
浅野
アニメを公開する1か月くらい前ですから、かなり終盤です。
戦慄が走るのも当然ですね(笑)。
あしゅら
でも、最後の最後でリテイクを出すなんて、なんだか、ゲーム制作にそっくりですね(笑)。
高野
まさに(笑)。
宮本
けど、次の週にはちゃんとできていたので、ビックリしたんです。さすがだなあと思いました。
高野
でも、終盤に無理難題を突きつけられて、井野元さんのところも大変だったでしょう?
井野元
そうですね・・・まず大ラフを監督に見せて、それで大丈夫そうだったら、ミサイルの軌道とか爆発とかを含めて仕上げていくんですけど、とくに爆発のシーンを仕上げるのに時間がかかりますので、正直ハラハラしながらつくっていました。
石川
井野元さんは、さらっと言ってますけど、それがオレンジさんのすごさなんですよね。ふつうのCG屋さんだと、こんな無理難題に応えてくれないですから。
あしゅら
そうですよね。いま、このタイミングでそれを言いますか、という話でしたし(笑)。
宮本
けど、あしゅらさんもリテイクを出しましたよね。
あしゅら
はいっ?
宮本
ギターのデザインで(笑)。
あしゅら
ああ・・・はい(笑)。
- [第1回] ベストな制作現場で
- [第2回] アニメならではのストーリーと表現
- [第3回] 見てから遊べば、より楽しめる
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