『開発者に訊きました ファミコン探偵倶楽部 笑み男』

2024.8.28

本記事では、レーティングがCERO C(15歳以上推奨)のタイトルを紹介しています。

新しいつくりかたで、新しい空気感を

アドベンチャーゲームを開発するにあたって、シナリオが重要なのは理解できますが、それ以外で重要になる要素はどのようなものでしょうか。

坂本

まず重要なのは、お話をゲームとして成立させる、
僕たちが「ロジック」と呼んでいる
遊びを組み立てる部分の仕掛けづくりですね。

その「ロジック」と呼ばれるものはどのようにつくられているのでしょうか?

宮地

実際には表計算ソフトでつくっていました。
いくつかのシートに分かれていて、
このシーンではこの背景を出す、このタイミングでこのBGMを鳴らす、
この条件を満たしていたらこのシーンに飛ぶ、というのを整理しています。

坂本

ゲームの進めかたもそこで全部管理していました。
その表計算ソフトを実際にこのようなツールに読み込んで動かしています。
すべてが破綻しないようにロジックを組んでいくのは
・・・骨の折れる作業でしたね(笑)。

これはまた随分細かい資料ですね。

宮地

ちょっと組み合わせを間違えると、
全然違うところに話が飛んじゃったりするので、
どこで間違えたんやろう・・・とか。

坂本

スーパーファミコン版『うしろに立つ少女』の開発時は、
また違ったツールを使ってロジックを全部自分ひとりで組み上げていたんです。
今回は宮地さんに厳しくチェックしてもらいながら直していきました。

宮地

ただ、坂本さんが
「ファミコン探偵倶楽部のロジックは俺にしかつくれへん、どや!」って
張り切って見せてくれるんですが、
実際触ってみたら、なんか楽しくないな・・・って(笑)。

一同

(笑)。

宮地

当然、ロジックは整理できているから話はつながっているんですけど、
やっていて手ごたえがないなぁ、って思ったんです。

それをどうやって坂本さんに伝えようか考えてたら、
「思ってること言ってええよ」と言ってくれたので、
素直に「なんか楽しくない・・・」って伝えました。

坂本

ショックでした(笑)。
自分ひとりで考えていたときのなごりで、
「そう簡単に解けてはいけない」という癖が出てしまうんです。
だからどうしても難しくしてしまう。
でも、なるほど解けないことが面白くないのか、と気づいて。

謎が解けたときの気持ち良さはほしいけど、
想像もつかないほど難しくなってはいけない。
このほどよい手ごたえをどこにでも出せるかと言ったら、
これがなかなか難しい。

あと、これまでの「ファミコン探偵倶楽部」は
テキストだけで声はなかったので、
「この言葉が足らんからわからへんねや!」って思った時は、
言葉を足したりしてギリギリまでロジックを変えられたんです。
でも、今回は音声収録が先に終わっちゃうから、
後から変更も追加もできない。
ということで、事前にかなり詰めましたね。

35年ぶりの完全新作で、坂本さんにとってはつくりかたの面で新しい挑戦があったということですね。

坂本

そうですね。
これまでの自分のつくりかたではなくて、
新しいつくりかたになったと思います。

遊びかたの面で新しくなった部分やチャレンジしたことはあったのでしょうか。

宮地

「ファミコン探偵倶楽部」のようなコマンド選択式のアドベンチャーゲームって
進めかたがわからなくなったときに、上から順にすべてのコマンドを選んでいく
総当たりになりがちなんです。
そういうことが発生すると、せっかくゲームの世界に入り込んでいたのに
気持ちが離れちゃったり、お話がわからなくなったりしてしまう。

今作ではそうしたくないなと思ったので、
お話を進めるためのヒントになるような単語は
画像セリフの色を変えた強調表現をしています。

ヒントを見れば、次に何をすべきなのか気づけるようになっているんですね。

宮地

そうです。
あと、強調表現がなくても何の話をしているかがわかるように、
セリフ回しにはかなり気をつけましたね。

ただ、あまりにヒントが多いと従来のコマンド選択式のアドベンチャーゲームの
良さがなくなるじゃん、と思われる方もいらっしゃるかと思うので、
オプションで強調表現をオフにできるようにもしています。

画像今作では携帯電話も新しい要素として登場していますね。ただ、スマートフォンではなく、ガラケーと呼ばれる携帯電話なところに時代を感じました。

宮地

やっぱり空木探偵事務所の空木さん、探偵くん、あゆみちゃんの
3人を軸にしたい気持ちはあって・・・
突然前作の時代から何十年後の世界はあまり想像がつかないな、ということから、
「ファミコン探偵倶楽部」らしさがしっかり残る時代設定にしました。

あと、新しい要素がほしいねとなったときに、
携帯電話って日本で何年くらいから普及したんだろうという話題になって。
「便利過ぎず、不便過ぎず」な時代がちょうどいいね、
という話になったんですよね。・・・坂本さん覚えてます?

坂本

覚えてる、覚えてる(笑)。

ちょうど初期の「ファミコン探偵倶楽部」をつくっていたのが、
80年代後半だったんです。
当時の日本は、もどかしい部分はあるけど、少しずつ便利になって
勢いが出てきた時代で、スマホじゃない携帯電話というのが
一番しっくりきたんですよね。

宮地

ちなみに今作では、いろんなシーンで電話をかけることができるんです。
人と話しているときなんかは失礼にあたるので基本かけられないんですが、
本来かけなくていいタイミングで相手に電話すると
その人の意外な一面が見えるかもしれません。

細かい部分までロジックが仕掛けられているんですね。
あと、今作は「ファミコン探偵倶楽部」として、さまざまな部分が新しくなっているようですが、坂本さんは「もっと幅広い人に遊んでもらいたい」とおっしゃっていましたね。

坂本

はい。とにかく今回は「ファミコン探偵倶楽部」ファンのかたはもちろん、
新しいお客さまにも遊んでいただきたい。
それもあって、これまでとは空気感を変えてカラフルにしたかったんですよ。

カラフル、ですか・・・?

坂本

過去作は良くも悪くも、あか抜けない、重い空気感がありました。
それも「ファミコン探偵倶楽部」の個性のひとつでもあるんですが、
今作は、もっとカラフルで華やかな雰囲気にしたかった。

「ファミコン探偵倶楽部」って常にどこかしら怖さを感じる中に
あえてギャグとか笑える部分をアクセントとして入れてるんですが、
やっぱり全体的に暗くて重たいムードがずっと垂れ下がってるような
イメージがあったんです。

もちろん今まではそれが狙いで、今作もそこは変わってはいません。
ただ、もうちょっとあか抜けさせたい、湿度を下げたい・・・
とは思っていたので、今回は雰囲気を変えようと。
その部分は結果的に宮地さんが参加してくれたおかげで実現できました。
「ファミコン探偵倶楽部」の「陽」の部分が良い感じに
強化されたと思っています。

宮地

ギャグの話でいうと、すごくしょうもないダジャレの意図を
翻訳チームに説明しないといけなかったのが、ちょっと・・・
恥ずかしかったです(笑)。

だけど、意味を説明したら「なるほど」とわかってもらえて、
「海外で通じるジョークにするためにこんな感じに変えてもいいですか?」
と提案してもらったりしました。
なので、言語にかかわらずウケるギャグになっているはずです(笑)。

坂本

ローカライズの話が出ましたが、
ちょっとしたキャラクターの感情の変化や、
細かな演出から感じられるものっていうのは、
言葉に関係なく通じ合うものがあるんじゃないかなと思っています。
そういった面も楽しんでいただけると嬉しいですね。

そういえば、今回は「インタラクティブドラマ」というキーワードを意識されたと聞きました。先ほどの「空気感を変える」みたいなものにも通じる部分だったりするのでしょうか。

坂本

ジャンルとしてみた場合はアドベンチャーゲームになるんですけど、
なんかやってることはゲームという言いかただけでは
表現できないんじゃないかな、と。

そのままゲームって呼ぶのは違和感があるな、とも思ったので、
「インタラクティブドラマ」っていうジャンルを
与えるのはいいんじゃないかと思ったんです。

宮地

ドラマのようにお話の本筋は誰が見ても一緒だけど、
その物語の中に自分が入り込んで、目の前にいる人と
やりとりしているかのような感覚を出したくて・・・
自分の行動や心持ち次第で反応が変わる部分もあるということで
「インタラクティブドラマ」はいいんじゃないかって話をしてましたね。

自分がドラマの中に入って主人公を演じるということですね。そういえば、宮地さんが好きだと言っていたRPGともなんとなく通じそうです。

宮地

たしかにそうかもしれないですね。
ちょうどこの間、坂本さんと「会話は生もの」という話をしていました。
その時自分がどんな言葉を選ぶかによって
話の転がりかたが変わっていく。
普段の生活でもそうですよね。
今作の中でも、ある特定のタイミングでしか聞けない話が
散りばめられているんです。
お話を順調に進めているだけでは聞けないセリフや、
触れないものが用意されているので、
「この瞬間にこれを聞いたらどんな反応が返ってくるんだろう?」とか、
「ここでこれを調べたらどうなるんだろう?」とか
いろいろ試してほしいなと思います。

坂本

ネタバレになってしまうので、具体的には言えないのですが、
今作は今までの「ファミコン探偵倶楽部」シリーズではもちろん、
おそらく従来のゲームではあまり見ないような表現も
取り入れているので、ぜひ最後まで楽しんでいただければ。

あと、ちょっとした回想シーンひとつとっても
演出面は相当こだわってつくっているので、
開発にたずさわったMAGES.さんとしても想像されていた
倍くらいのボリュームがあったんじゃないかなと思います。
根気よく対応してくださって、本当に感謝しています。

それでは最後になりますが、「ファミコン探偵倶楽部」シリーズの新作にご期待いただいている方へ、ひと言ずついただけますか。

坂本

シリーズファンのみなさま、そしてリメイクで「ファミコン探偵倶楽部」に
興味を持っていただいたみなさま、本当にお待たせしました。
とにかくストーリーも遊びも新しくなった「ファミコン探偵倶楽部」
を楽しんでもらいたいのですが、
こだわりの演出によって、恐怖に彩られたヒューマンドラマが展開するという
昔から変わらない「ファミコン探偵倶楽部らしさ」も
同時に楽しんでいただければと思います。

今回は結構なボリュームを遊んでいただける
体験版もご用意していますので
初めての方はまずは触ってみてください。
続きが気になる!というところまで
しっかり遊べるようになっていると思います。

宮地

「ファミコン探偵倶楽部」を遊んでくださるお客さまって
本当に細かいところまでいろいろ見ていて、こっそり仕込んでいるものにも
気づかれる方が多いと思っています。
今回もいろんなところにたくさんネタを詰め込んでいますので、
一回クリアしたあとも何度もプレイして
楽しんでいただけると嬉しいです。

私たち自身、お話を書いて内容も完全に知っているはずなのに、
何回もテストプレイする中で
「あっ、こことここがつながってるなんて・・・!
坂本さん、これ気づいてました?」みたいな話をすることがありました(笑)。
繰り返しやるたびに自分たちでも新しい発見があるんです。

ぜひ、「ファミコン探偵倶楽部」を初めて遊ばれる方も、
シリーズファンの方も、気持ちの赴くままにプレイしていただければと思います。
そしてプレイした方が、少しでも、いつも身近にいてくれる人に対して
優しくなれるといいな、なんて思っています。

坂本

そうやね。そういうものであってほしいよね。
実はその言葉は、「ファミコン探偵俱楽部」シリーズの一貫したテーマなんよ。
それが宮地さんから自然に出てくるとは頼もしい限りやなあ・・・。

今回はそんな宮地さんと意見をぶつけ合い、
発展させながらつくりあげた完全新作です。
ファンの皆さん、安心してください。
無事に後継者が見つかりました!(笑)

宮地

・・・「消えた後継者」にならないように頑張ります(笑)。

こだわりの詰まった演出で展開される新しい「ファミコン探偵倶楽部」、さっそく調査開始したいと思います。ありがとうございました。