『開発者に訊きました ファミコン探偵倶楽部 笑み男』

2024.8.28

本記事では、レーティングがCERO C(15歳以上推奨)のタイトルを紹介しています。

本当に自分が描きたいもの

任天堂のモノづくりに対する考えやこだわりを、
開発者みずからの言葉でお伝えする
「開発者に訊きました」の第12回として、
8月29日(木)に発売となる
『ファミコン探偵倶楽部 笑み男(えみお)』の
開発者の皆さんに話を訊いてみました。

まず、簡単に自己紹介をお願いできますか。

坂本

坂本です。
ゲーム&ウオッチ時代からいろんなもののソフト開発にかかわっています。
ファミコン、ディスクシステムからNintendo Switchに至るまで
「ファミコン探偵倶楽部」※1シリーズや、
「メトロイド」シリーズ※2などさまざまなゲームをつくってきました。
違う方向性のタイトルでいうと、
「トモダチコレクション」※3の2作もですね。

自分はやはり、現場で実際に手を動かすのが好きなので、
今作ではプロット(物語の筋)づくり、脚本、BGMのリファレンス、
カットシーンや演出など全部、宮地さんと一緒にやってきました。
でも、今作もプロデューサー欄に名前が記載されています(笑)。

※1ファミリーコンピュータ ディスクシステムで1988年に『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』、1989年に『ファミコン探偵倶楽部 PARTIIうしろに立つ少女』の2作が発売されたアドベンチャーゲームシリーズ。その後1997年に衛星放送を使ったスーパーファミコン専用周辺機器「サテラビュー」で『BS探偵倶楽部 雪に消えた過去』が配信された。

※21986年発売のファミリーコンピュータ ディスクシステム用ソフト『メトロイド』をはじめとするアクションゲームシリーズ。主にサイドビューのアクションである「メトロイド」シリーズとファーストパーソンアドベンチャーである「メトロイドプライム」シリーズに大別される。

※32009年発売のニンテンドーDS『トモダチコレクション』と2013年発売のニンテンドー3DS『トモダチコレクション 新生活』の2本。自分自身や家族など、身近な人にそっくりなMiiを、現実世界と同じ時間が流れる島に住まわせて、生活を見守る。

宮地

宮地です。
Wii『ドンキーコング リターンズ』※4
ニンテンドーDS『絵心教室DS』※5
Nintendo Switch『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』※6など、
さまざまなジャンルのタイトルで主にコーディネーターを担当してきました。
Nintendo Switchの
『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』
『ファミコン探偵倶楽部 うしろに立つ少女』でも
コーディネーターとしていろんな調整を行っていました。

※42010年に発売したWii用アクションゲーム。叩く、つかむ、転がるなどドンキーコングのさまざまなアクションを使ってしかけを解いたり、敵を倒したりしながらゴールを目指す。

※52010年に発売。ニンテンドーDSのタッチペンで、鉛筆や絵の具など実際の画材に近い描き心地で手軽に絵を描くことができる。レッスンを通じてさまざまなテーマの絵の描きかたのコツを知ることができるほか、自由に好きな絵を描くこともできる。

※62018年発売のNintendo Switch用ソフト。さまざまなゲームに登場するキャラクター同士でふっとばして遊ぶ、対戦型アクションゲーム。操作キャラクターは追加コンテンツを含め80体以上に及び、100以上のステージで大乱闘が繰り広げられる。

坂本

そこで僕に目をつけられたのが運の尽きだった。

一同

(笑)。

宮地

そんなことはないですよ!(笑)
私は今作では、
アシスタントプロデューサーとしてかかわることになりました。
役割としては坂本さんと一緒で、
プロットをつくる段階から入らせていただき、
最終的には脚本も一緒に書いて、演出まわりの調整もしました。

ありがとうございます。それでは坂本さん、「ファミコン探偵倶楽部」とはどういうシリーズなのか、ご紹介いただけますか?

坂本

「ファミコン探偵俱楽部」は、最初にファミコン ディスクシステムで発売した
コマンド選択型のアドベンチャーゲームです。
プレイヤーは「空木(うつぎ)探偵事務所」の探偵、つまり主人公の目線から
ゲームにかかわるのですが、
ボスの空木俊介探偵と、同僚のあゆみちゃんと一緒に
不思議な事件に出合って謎を解いていくシリーズです。

特徴としては、シナリオにちょっと怖い要素を必ず入れています。
ほぼ僕の趣味なんですけど・・・。
その怖い要素を音楽とかタイミングとか、
細かくこだわって演出しています。

坂本さんは昔からアドベンチャーゲームがお好きだったんですか? 何かアドベンチャーゲームにかかわるきっかけがあったのでしょうか。

坂本

任天堂がファミコンを出して以降、
当時社長だった山内(溥)さんが横井(軍平)さん※7に対して
「あれをつくれ、これをつくれ」って
いろいろ指示されていたんですね。

その中のひとつに、
「ファミコン少年探偵団」っていうタイトルでゲームを考えて、と
お題を出していたことがあって。

※7当時の開発第一部部長。任天堂在職中にウルトラマシンや光線銃シリーズなどの電子玩具を数多く手がけたほか、ゲーム&ウオッチやゲームボーイなどの開発を指揮した。

なんと、「ファミコン少年探偵団」というお題が先にあったんですね。

坂本

そう、まだそのときは「少年探偵団」っていう名前でした。
それでそのときかかわっていた外部の開発会社さんからの提案を、
横井さんが僕たちに見せてくれたんですけど・・・。
それがどうも・・・ゲームになっていないような感じで。
これはアカンかもなぁ・・・と思っていました。

で、同時期に『ポートピア連続殺人事件』※8という
アドベンチャーゲームがファミコンで発売されて、
ちょっとそれをやってみたら、面白かったんです。
怪しいところをチェックして何か発見するとか、電話番号を探し当てるとか、
「こんなことも遊びになるんや」「こういうものをつくってみたいな」と
思いました。

だから横井さんに
「いまの少年探偵団の内容のままでつくるより、
もっとしっかりしたアドベンチャーゲーム、
つくったらええんちゃいますか?」と提案しました。

そしたら横井さんが半ば「勝手にせえ」みたいな感じで(笑)。
それで僕がやらせてもらうことになりました。

※8エニックス(当時)から発売されたアドベンチャーゲーム。1983年にPC版、1985年にファミリーコンピュータ版が発売。神戸で発生した連続殺人事件を相棒のヤスと捜査する。

ちなみに坂本さん、それまでにシナリオを書かれた経験はあったんですか?

坂本

それが、ないんですよ。
ただ、子どものころはよく本を読む子やったんです。
こう見えて、体が弱かったんで(笑)。
学校を休みがちで、そのあいだにできることって本を読むくらいしかなくて。
お話というものにたくさん触れていたというのはあるかもしれません。
でも、書いた経験は全然なくて、「ファミコン探偵倶楽部」がデビュー作です。

そうだったんですね。未経験の状態からいきなり『消えた後継者』『うしろに立つ少女』をつくったというのは驚きです。ところで、「ファミコン探偵倶楽部」を開発する中で、何か目指したことはありましたか。

坂本

そうですね・・・とにかく僕は当時映画がものすごく好きで。
中でもイタリアのダリオ・アルジェント監督※9という方の怖い系のものが好きで、
その人の影響を受けているかもしれません。

ただ、1作目の『消えた後継者』は
「ファミコン少年探偵団」の構想から派生したもので
主人公が記憶喪失、っていうアイデアは
当時開発を担当されていた開発会社さんから出てきたアイデアでした。
その設定に沿ってお話をつくったので、
本当につくりたかったオリジナルのストーリーとは言えないように思います。
その結果、なんだかちょっと
「僕の思っている怖いもの」の匂いとも違っていたな、と。

でも、例えばこのシーンのここで音楽がピタッと止まったら・・・とか、
緊迫感のあるシーンで、文字の送るタイミングを
遅くしたりして細かく調整してみたら・・・とか、
映画的な手法を取り入れたアドベンチャーゲームというものとして、
やってみたかったことはできた、という手ごたえはありました。

結果、『消えた後継者』を面白いと言ってくれる人もたくさんいたので、
こういうものには可能性があるんやなって。
それなら、もっとゼロから自分の好きな世界をつくりたいと思って
できたのが『動画ファミコン探偵倶楽部PARTIIうしろに立つ少女』でした。

※9『Suspiria(サスペリア)』をはじめ、数多くのホラー映画を手がけた映画監督。

『消えた後継者』で達成しきれなかったことを『うしろに立つ少女』で盛り込んだということですね。

坂本

そう、当時好きだった「学校の怪談」をテーマにして。
全然筆が進まない時期もあったんですけど・・・(笑)。
自分が見てかっこいいなと思ったいろいろな映画から
刺激されたものを参考に、演出として盛り込みました。
特にこだわったもののひとつは音楽ですね。
70年代ごろのプログレ※10やテクノ※11、といった
音楽を使うつもりでいました。

やってみたかったことをひととおり形にして、
自分でも納得できる出来ばえになって、
それをお客さまにも受け入れていただいて。
そのおかげでこうして今回のような新作にもチャレンジできたので、
『うしろに立つ少女』で自分のやりたいことが確立できたように思います。

※10プログレッシブ・ロックの略で、ロックの一分野。クラシックやジャズなど異なるジャンルの音楽を融合させ、変拍子を多用するなど複雑な楽曲構成をもつ。

※11シンセサイザーなどの電子機器を使って作られるポップ・ミュージックの総称。

なるほど、やりたいことができて、そこでひとつ大きな区切りがついたということですね。

坂本

ファミコンでできる範囲で、十分な結果が出せたと思っていたんです。
ただ、ひとつ気になったのは
「こういうのを毎週つくってほしい!」って声がやたら多かったんです。
「それはできんやろ~」って(笑)。

そんなにぽんぽんお話はつくれないし、
じゃあ外部の作家さんに頼むか?って話もあったんですけど、
ファミコン用のストーリーを小説家さんにお願いするのは、
たぶん簡単ではないんです。
お話をつくるだけじゃなくて、
同時にどういう遊びにするのかをセットで考える必要がありますし。
結局、新作を出せずにシリーズを維持できなかったという心残りはありました。

そこから結果的に35年の月日が経ったわけですが、その間に何か「ファミコン探偵倶楽部」に関するお話が立ち上がったことはあったんでしょうか。

坂本

26年前にスーパーファミコンで
動画うしろに立つ少女』をリメイクするチャンスに恵まれました。

そのときは時代がファミコンからスーパーファミコンに代わって、
グラフィックも音楽も表現できることが増えたので、嬉々として取り組みました。
そして、「やっぱりファミコン探偵倶楽部つくるのって楽しいなー!」って
思ったんですけど。
でも結局お話が思いつかなかったら、新作はつくれない。
しかもこのリメイクはたまたま取り組むチャンスがあってのことだったし、
ほかのゲームに取りかかっているうちに、
なかなか「ファミコン探偵倶楽部」のことは考えにくいという
状況になってしまっていました。

そこから23年が経ち、2021年のNintendo Switchでのリメイクにつながったと思うのですが、それはどういう形で実現したんでしょうか。

宮地

Nintendo Switchのリメイク2作は、MAGES.(メージス)さんという
もともとアドベンチャーゲームを多く手がけておられる
ゲーム会社があるのですが、そのMAGES.の担当の方が
並々ならぬ熱意で任天堂に提案してくださったのがきっかけです。

ソフトメーカーさんとの窓口となる部門に所属している
スタッフとMAGES.さんがまったく別の打ち合わせをしているときでも
「ところでこの間お話ししたリメイクの件、企画書を更新してきました!」とか、
「映像資料も更新しました。こういうのをつくりたいんです!」って
持ってきてくださったそうで・・・
そんな提案が1年以上続いたと聞いています。

これは本気だぞ、ということで、MAGES.さんがつくられた
資料や企画書をそのスタッフが社内で提案して回ったというのが始まりでした。

それは確かにすごい熱量ですね。MAGES.のご担当の方は、どうしてそこまで熱意をもっておられたのでしょうか。

宮地

先方の担当の方が、「ファミコン探偵倶楽部」の大ファンだったそうです。

坂本

僕も資料を見せてもらったとき、熱意は感じたんですけど、
どこまで本気なのか・・・という気持ちもありました。
そんな中、デモでつくられたグラフィックを見せていただいたときに
これはどうやら本当にやる気だ、と思ったんです。

宮地

実際に『消えた後継者』の中のワンシーンを
「こういう形でリメイクしようと思っています」って
つくりあげて持ってきてくださったんですよね。

坂本

そう、そのグラフィックでは「ファミコン探偵倶楽部」のキャラクターが
アニメーションで動いていたり、
フルボイスで物語が語られていたりしたんです。

ファミコン版ソフトの制作時は、当然そういうことができなかったので
「これは、新しいファミコン探偵倶楽部ができるんちゃうか!」と思って
すごく興味を持ちました。

具体的なデモを見て、手ごたえを感じたということですね。ちなみに宮地さんは、アドベンチャーゲームをかなり遊ばれていたんですか?

宮地

いえ、会社に入るまではまったく遊んだことがなく・・・。
個人的にはレベルアップしてコツコツやるRPGが好きなのですが、
会社に入ってからは「食わず嫌いはやめよう」と思い、いろんなジャンルの
ゲームをひととおり遊びました。
その中にアドベンチャーゲームもあったのですが、こういうゲームも
あるんだ、と今まで知らなかった世界を知ることができました。
「ファミコン探偵倶楽部」については、タイトル自体は
知っていたんですが、触るチャンスがないままで・・・。

MAGES.さんのリメイク担当になったとき、
ニンテンドー3DSのバーチャルコンソールで出ていた『うしろに立つ少女』を
クリアする、っていうのが最初の仕事でした(笑)。
で、実際にやってみて・・・しびれました。
今までなんでやらなかったんだろうって素直に思いましたね。

なるほど、リメイク版を開発する時に初めて「ファミコン探偵倶楽部」に実際に触れた訳ですね。そんなお二人がリメイク版開発で中心的な立場になったと。

坂本

僕は最初のうちは、監修みたいな立場のつもりだったんですけどね。
あくまでMAGES.さんのつくるものをチェックする、くらいの。

でもMAGES.さん側から「坂本さんも一緒につくりましょう」と言ってもらって。
「ほんまに? じゃあ参加していいですか?」って(笑)。
僕自身、実務が本当は好きだけど、MAGES.さんの持ち込み企画に
出しゃばって良いのか? 参加していいのか? と迷ったんです。
そこで宮地さんが「やったらええんちゃいます?」って言ってくれて(笑)。

宮地

最初のころ、坂本さん遠慮がちでしたよね。
「監修やし、チェックだけやんな、普通・・・」とか
「・・・でも意見も言ってもええんやろか」とか言うので
「言ってみればいいじゃないですか!」って背中を押してました(笑)。

坂本

それで実際に参加して、ガンガン意見を言うようにして。
結局、監修とは?と自分でも思うくらい、がっつり作業をやってしまいました。
それに応じて、形にしてくださったMAGES.さんには本当に感謝です。

2021年に2作のリメイクを発売しましたが、その開発を通じて得られたことはありましたか?

坂本

リメイクしたことで、「ファミコン探偵倶楽部」は
これで本当に自分が描きたいものになる、
それができるかもしれないという可能性を感じた、ってことかな。
次やるとしたら、絶対いてほしいと思う人たちを見つけたと思いました。
開発で協力してくれるMAGES.さん、そして、宮地さんですね!
・・・と、勝手に決めてました(笑)。

宮地

私は、MAGES.さんという会社さんと知り合えたことも大きいですし、
何より任天堂でさまざまなものづくりをされてきた坂本さんと
一緒に仕事ができたことが大きかったですね。
任天堂ならではのものづくりやものの見かた、考えかた、
本当に学びになりました。