開発者に訊きました『やわらかあたま塾 いっしょにあたまのストレッチ』 企画制作部第4プロダクションG 久保 堅太 企画制作部第4プロダクションG 藤井 英樹 企画制作部第10プロダクションG 吉信 智章

2021.12.2

感染症対策を行い、十分な距離を保ってインタビューをしています。

やさしい見た目の複雑な設計。

このソフトのSwitchでの開発が決まって、まず最初にやったことは何だったのでしょうか。

久保

まずはDS版とWii版を作られた吉信さん、藤井さんのおふたりに
開発当時のお話を訊きに行きました。

もともと僕はゲーム開発のモチベーションとして、
「あまりゲームをやらない人にどう受け入れてもらえるか」
というのをテーマとして持っていました。

お話を伺っているうちに、
小さなお子さんや、教育に関心のある親御さんにも
興味を持ってもらって、楽しく遊んでもらえるものに
仕上げられそうだな、と感じられるようになりました。

おふたりから、「こうして欲しい」「こうしなきゃダメだ」みたいな要望はなかったんですか?

久保

そこは実はあんまりなくて、
とてもありがたいことに、
かなり自由にやらせていただけました。
あ、ただ・・・

吉信

動画ハカリ先生 は?」ってね(笑)。

久保

「ハカリ先生は当然いるんですよね?」って
最初のお話で吉信さんに言われたことを
よく覚えています。

なにしろその時は、まだ中身が何も決まっていなくて、
キャラクターをどうする、というような段階でもなくて(笑)。

それはまた、ピンポイントにきましたね(笑)。

久保

はい。
それでハカリ先生には
もちろんご出演いただくことになったんですけど
先日、初公開映像を出した時に
SNSで「ハカリ先生、懐かしい!」という声を
たくさんいただけて・・・

ハカリ先生がいてくれてよかった、
と思いました。

「ハカリ先生」あってこその、『やわらかあたま塾』だったんですね。
そういえば、今回は小さなお子さんへ、モニター調査を行ったと伺ったのですが、その時の印象はいかがでしたか?

久保

思った以上に小さなお子さんはゆっくり操作する、
というのがとても印象的でした。
「子どもがプレイするスピード」の想定が甘かった
と気づかされました。

もちろん、DS版、Wii版も小さなお子さんに
向けて作られてはいたのですが、
今回は自分の子どもに近い5歳くらいのお子さんが
もっともっと楽しめるようにしたかったんです。

スピード以外にも何か気づきはありましたか?

久保

間違えた時のお子さんたちのリアクションですね。
例えば、正解した時は「ピンポン」、
不正解の時は「ブブー」という
音がプレイ中に出るじゃないですか。
でも、子どもはそういう音に敏感なんです。

「これ、間違ってるよ。」
なんて強く指摘してしまうと
すっかりやる気をなくしちゃうのでは、
と思いました。
勉強だって、間違いを強く指摘されたら嫌になりますよね。

ゲームも同じで、不正解の音ひとつにしても
サウンド担当の方に相談して、
否定のニュアンスを減らしてもらったりして、
改良していきました。

実際にプレイいただいている姿を、自分の目で確かめないと得られない気づきですね。
ところで「そのまま移植しただけでは、小さなお子さんには難しそう」、という気づきに対して、具体的にどのような調整をされましたか。

久保

まず、問題のレベルを丁寧に見直しました。
そのためにDS版とWii版のゲームの内部を解析したんですけど、
すごく細かく、丁寧に出題の仕組みが作られていたんです。

吉信

あ~、そういえば
社内チャットでこのことに関する相談をもらいましたね!
問題レベルの調整、どうやって作ってるんですか?って。

久保

はい。
表には見えてないんですけど、
『やわらかあたま塾』のミニゲームは
その一つひとつに内部で
DS版もWii版も数段階の
難易度レベルの問題が用意されているんです。

それを素早く解いていくんですけど、
回答者の正解するペースに合わせて
出題のレベルが上下する仕組みになっています。

その中でも一番下の難易度の問題を
「本当にうちの5歳の子どもが解けるのか?」
という視点で、間口が広くなるよう見直しました。

どのように見直したのでしょうか。

久保

Switchでも同様に、
内部で問題の難易度を上下させる仕組みを入れ込んで、
今回は、それを6段階※7のクラスに分けて表示することにしました。

さらに、その最初の難易度レベルを「幼児クラス」
と名づけて、問題の難易度を細かく見直しました。

例えば、「ストレッチ」ではどのミニゲームも
最初は「幼児クラス」から始まるんですけど、
その「幼児クラス」の中でも一番最初に出題される問題は、
「最初に出す専用の問題」があったりします。

※7幼児クラス、初級クラス、中級クラス、上級クラス、エリートクラス、超エリートクラスの6段階。

それは「誰もが解けます」というような簡単な問題?

久保

はい。
つまりチュートリアル的な問題を
一番最初に出すようにしています。

お子さんが解きやすく、というのも大事なのですが
大人の方にとっても
スッとルールが入ってきて、
ゲームにあまりなじみのない方にも
気持ちよく解いていただけるようになっています。

なるほど。それは良い取っ掛かりになりますね。

久保

動画それ以降は、
正解すれば少しずつ難しい出題がされていきますし、

逆に途中で間違えれば、
次は正解しやすくなるように、
レベルを少し落として出題して、
正解すればまた難しくなって・・・。

さりげなくプレイしていても、
実はゲームの裏側では
「この人には、このクラスの問題が最適」
という、それぞれに合わせた問題が用意されるんです。

DS版、Wii版でもこの難易度設計はあったんですが、
それを、より間口の広い問題から始めて、
サクサク気持ちよく解き進めていただけるように、
チューニングし直しました。

あれ、ちょっと待ってください。最初に誰もが正解できる問題を持ってくる、ということですが、正解するとだんだん難しくなっていくんですよね?
そうしたら、小さなお子さんはどこかで不正解になって嫌になってしまうのでは・・・?

久保

そうなんです(笑)。
これもモニターでの気づきなんですけど、
小さなお子さんって、失敗すると
ワーッと騒いだり、
悔しくて泣いてしまったりするんです。

そこで、今回は「かんたんサポート」
という機能を付けました。

それは、どんな機能なんですか?

久保

一番簡単な難易度の
「幼児クラス」の問題しか出ないようになります。
小さいお子さんでも
楽しく続けられるようになっています。

「かんたんサポート」を使うと
正解してもクラスは上がっていきませんが、
楽しく遊んでいただくことを最優先としているので
その部分は割とおおらかに設計しています。

お子さんが楽しく遊んでくれていたら、親御さんとしても嬉しいですよね。

久保

この「かんたんサポート」のモニター調査で、
小さなお子さんのいる社員に、家でプレイしてもらって、
様子を録画して見せてもらったんですけど、
「ピンポン、ピンポン」って
次々正解するじゃないですか。

お子さんは正解して「やったあ!」と喜ぶんですけど
それを見守っているお父さん、お母さんの顔が
ものすごく嬉しそうなんですよね。
それを見て、こっちまで嬉しくなってしまって(笑)。

久保さんもお父さんですから、そこは共感しますよね。

久保

はい。
僕自身も在宅勤務の時に
家で自分の子どもでモニターをしていたので
その気持ち、すごくわかるんですよね。

他にもモニター動画を見ていると、
お子さんが正解する姿を見て、「え、こんなのも正解できるの?」
みたいな驚きのシーンもあったりして。

動画からお父さんとお母さんの喜びがとても伝わってきて、
それが単純に嬉しかったです。

自分の子どもに対する新たな発見ですね。

久保

自分の5歳の子どもが遊べるように作る
と決めていたので、
それがちゃんと達成できているな、
という実感が得られました。

吉信

DS版やWii版の時代も、会社にお子さんを呼んで
モニター調査は実施していたんですけど
やっぱり最大のモニターは開発者の家族なんです。
家族からの学びは、とても大切で、頼りにしています。

シリーズ立ち上げ当時、藤井さんと吉信さんが、「お子さんに楽しんでいただけるように」と意識されていたことを、世代を超えて、久保さんが受け継がれているんですね。

藤井

DS以前の任天堂には
『やわらかあたま塾』のような類のゲームソフトが少なくて、
それを試行錯誤で形にして、世に出しました。

それを今度は久保さんが、
自分なりの解釈で、
同じように自分の子どもをモニターとして
ブラッシュアップして、
新しい形の商品として世に出して・・・。
非常に感慨深いです。

吉信

久保さんは今ちょうど5歳のお子さんがいて、
まさに日々このゲームを遊んでほしい人と接していますよね。

そうすると、どう作ったらいいか、感覚的にわかると思うんです。
僕らはもう当時の感覚を忘れてしまっているので、
なんやかんや言わずに久保さんにお任せしようと思って。

藤井

シリーズ一作目の開発者って、「こうあるべき」を
言いがちなんですけど、世代も変われば、
世間の温度感も変わってくるんで
それを今の担当者の目で見て、
形にする方が絶対いいものができるはずなんです。

久保さんだったら
ちゃんとやってくれるだろう、
みたいに信じていました。

久保

あたまのやわらかい先輩方で、ありがたいです(笑)。

さて、『やわらかあたま塾 いっしょにあたまのストレッチ』は大人のお客さまにも広く遊んでいただけるソフトかと思います。このゲームを大人が遊ぶとしたら、どういうところがポイントになるのでしょうか?

久保

はい、親子で遊べるソフトとして、
いろいろとお話をしてきたんですけど、
大人も楽しめるように工夫しています。

先ほどお子さんのモニター調査の話をしたんですけど、
実は「やりこみ要素」のリサーチとして
デバッグチーム※8で大人のモニター調査も行いました。
普段からゲームをやり慣れている方が中心の試験です。

※8品質向上のため開発中のソフトを実際にプレイし、プログラムの不具合等を調査するチーム。

吉信

もしかして、その中にDS版やWii版に関わったエキスパート
みたいな人もいましたか?

久保

そうですね、モニターの中には当時DS版で「柔王(やわらかおう)」※9
を取った人もいました(笑)。

※9DS版、Wii版内の「やわらかテスト」で認定される、最上級の段位。段位は初級、9~1級、初段~9段、名人、柔王がある。

藤井

それはすごい。DS版は16年前ですよね。かなり長いキャリアの方だな・・・(笑)。

久保

でも、当時ほどはうまくできなくて、
「あれ、あたま、カタくなってる・・・?」
みたいな話もありました(笑)。

(笑)。

久保

『やわらかあたま塾』はスコアアタックも熱いんですよ。
先ほど「ストレッチ」の出題の仕組みを
解析した話をしましたが、
それで、どれくらいのスピードで
どの段階で不正解を出さないようにすれば
どれくらいの点数が稼げる、
という構造が見えました。

それを画像逆に遊んでいる人に見せてしまえば
より高い点数を目指してもらいやすくなる
のでは、
と思いました。

吉信

確かに問題を解いているとき、
今自分が何クラスの問題を解いているか?
が表示されれば、面白いですし、
モチベーションにもつながりますよね。

久保

「次は上級者クラスだな」とか
動画あと2問くらい正解できればエリートクラスかも!
という感じで
時間と正解数を把握しながら遊べば
大人にとっても、かなり歯ごたえのあるゲームになるかな、と。

藤井

「もう一回やればできそう」という
前向きな悔しさを
持っていただけるかどうかは大切ですよね。

久保

やさしい見た目をしているのですが、
回答に応じてクラスや点数を増減させたり、
複雑な設計が裏側には隠れています。
でもそれをできるだけ感じさせないように
工夫しました。

入り口は簡単だけど裏側にはバランスを取るための苦労があるんですね。
ところで、収録されているミニゲームはどのようにして選定されたのでしょうか?

久保

海外でも同時発売しますので、
世界中のお客さまが遊んで楽しめるものを選ぶ
というのが一つの基準です。

それから、「誰でも楽しめるゲーム」を目指すために
よりパッと見でルールが分かりやすいものを選びました。

前提の知識や経験がなくても誰でも楽しめる、というのはとてもうれしいことですね。