開発者に訊きました『やわらかあたま塾 いっしょにあたまのストレッチ』 企画制作部第4プロダクションG 久保 堅太 企画制作部第4プロダクションG 藤井 英樹 企画制作部第10プロダクションG 吉信 智章

2021.12.2

感染症対策を行い、十分な距離を保ってインタビューをしています。

親と子が別々だった。

任天堂のものづくりに対する考えやこだわりを、
開発者みずからの言葉でお伝えする
「開発者に訊きました」の第3回として、
12月3日(金)に最新作が発売となる
「やわらかあたま塾」シリーズの
開発者の三人に話を訊いてみました。

まず、簡単に自己紹介をお願いできますか。

久保

今回発売する
Nintendo Switch用ソフト
『やわらかあたま塾 いっしょにあたまのストレッチ』の
ディレクターを担当しました、久保です。

吉信

ニンテンドーDSで販売された『やわらかあたま塾』※1
Wiiで販売された『Wiiでやわらかあたま塾』※2
ディレクターの吉信(よしのぶ)です。
DS版ではメインプログラマーも兼任していました。

※12005年6月にニンテンドーDS用ソフトとして発売。「あたまの体操」をテーマに、5つのジャンルのミニゲーム集を楽しめる。

※22007年4月にWii用ソフトとして発売。5つのジャンルのミニゲーム集を多人数で楽しむことができる。

藤井

藤井です。
同じくDS版、Wii版『やわらかあたま塾』で
プランナーとデザイナーを担当していました。

ありがとうございます。今回はSwitch版の開発者である久保さんに加え、Switch版の開発には参加されておりませんが、DS版、Wii版の開発者である吉信さん、藤井さんにもお越しいただき、「やわらかあたま塾」シリーズ全作品にわたるお話を伺います。
まずは久保さん、今回発売するNintendo Switch『やわらかあたま塾 いっしょにあたまのストレッチ』について、ご説明いただけますか。

久保

はい。
『やわらかあたま塾 いっしょにあたまのストレッチ』は、
「直感」「記憶」「分析」「数字」「知覚」の
5ジャンルにわたる
カタイあたまをもみほぐす「あたまのストレッチ」を
収録したミニゲーム集です。

今回のSwitch版『やわらかあたま塾』は
DSとWiiの『やわらかあたま塾』から
厳選した「ストレッチ」を収録して
Switchならではの要素を加えたものです。

「メイン」と「パーティ」の2つのモードがあり、
「メイン」は20種類のミニゲームを解くことで
一人でコツコツ「あたまのストレッチ」ができ、
「パーティ」では、ご家族やご友人と、
一緒にワイワイ遊べるようになっています。

「やわらかあたま塾」シリーズの始まりはニンテンドーDSでしたが、
このソフトの企画はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

吉信

当時は岩田さん※3が社長でいらっしゃって、
「普段ゲームをしない人にもゲームを触ってもらおう」と、
任天堂は「ゲーム人口の拡大」※4という戦略を掲げて、目標にしていました。
そんな中で自由に考える時間がありましたので、
「DSでどんなことができるか?」を
藤井さんと一緒に考えていました。

※3岩田聡。元任天堂代表取締役社長。ニンテンドーDSやWiiの発売、またNintendo Switchの開発を指揮し、任天堂の娯楽をより多くの方へ届けることに尽力した。「Nintendo Direct」では自ら出演し、“直接” お客さまに製品やサービスをご紹介した。2015年逝去。

※4岩田聡が2003年ごろから掲げた任天堂の基本戦略。「ゲーム離れ」が叫ばれた当時、年齢、性別、ゲーム経験の有無を問わず、誰にでも楽しめるゲームを提唱した。

藤井

僕は当時、子どもが幼稚園受験の時期だったんです。
それで妻と子どもの「お受験」対策を
家庭内で見ている中で
「親と子」の学習の構図に疑問を持っていました。

疑問、というと・・・?

藤井

「やらせる親」と「やらされる子ども」という関係性に
とても疑問を抱いていました。

そんな時、電車内のとある学習塾の
吊り広告に書かれた中学入試の問題を見て、
試しに挑戦してみたら
解けなくて「ドキッ」としたんですよね。

解けると思っていた問題が、解けない。

藤井

はい。自分のあたまのカタさに危機感を覚えました。
それから、当時子どもにお受験をさせている親御さんたちが
「ゲームはためにならない。」「ゲームは勉強の邪魔になる。」
とおっしゃっているのを聞いたことも影響して、
親御さんが勧めたくなる、「楽しくても、ためになるゲーム」
が作れないかな・・・と考えていました。

なるほど。ご自身の環境や体験が企画のアイデアになったんですね。
それで、おぼろげに方向が見えたあとはどうされたんですか?

藤井

僕がロマンを語り、
吉信さんがテクノロジーで実現する(笑)。
ということで、
吉信さんに相談しに行きました。

吉信

当時、世の中の風潮として
「あたまの体操」※5的なクイズが流行っていたんですよ。
本やTV番組もありましたし、うちの子は
小学校の先生と一緒によくやっていたようで・・・。

家の中でも、「こんなの解ける? あんなの解ける?」って、
日常的に遊んでいたんです。

そんな風にクイズに夢中になっている子どもを見て、
これはウケるかもしれない、と思っていました。
だから、藤井さんから話を聞いたとき、
二つ返事で、「やりましょう!」と言ったんです。

※5思考力や創造性が身につくような問題を解くこと。多湖輝氏の著書「頭の体操」シリーズの日本でのヒットをきっかけに、番組や書籍等が企画された。

藤井

ただ、「教育」にどこまで踏み込んで
「遊び」と共存させるか、は迷いました。
僕らは娯楽を専門にしているけど、
教育のことは分からない。

そこで、現地調査を行うために
教育イベントや教育の現場に足を運びました。

お子さんたちは、どんな様子で学習していたのでしょうか。

吉信

それが・・・楽しそうじゃなかったんです。

楽しそうじゃない?

吉信

残念なことに、お子さんたちが全然楽しそうじゃないんです。
それに、お子さんたちは一生懸命机に向かっているんですけど、
親御さんたちは必ずしもその様子を見ていなくて、
親同士でおしゃべりしていたり、外に出て行ったりする方もいて・・・。
なんというか、親と子が別々だったんです。

藤井さんもおっしゃってましたけど、「やらせる親」と「やらされる子ども」という構図で切り離されてしまっていたということですね。

吉信

先ほども話したんですけど、
当時はDSをこれから世に送り出そうとする時で、
僕としても、
「より多くの人にゲームを触ってもらおう」
というのを自分のテーマとして、持っていました。
そういう目線で、僕と藤井さんはヒントを探していたんです。

それで、その構図に切り込んだんですね。
ちなみに「お子さんたちが楽しそうじゃない」「親と子が別々」という課題を、DSで解決できそう、という実感はあったのでしょうか。

吉信

ありましたね。
まず、ゲームって普通コントローラーを使いますよね。
ボタンの多いコントローラーって、
小さなお子さんには決して簡単とは言えないじゃないですか。
親御さんでも、ゲームに不慣れな方は
ちょっと抵抗があるかもしれません。

でも、DSはタッチペンで操作できますよね。
見たまま、触るだけでいいんです。
誰が見ても、パッと押すだけ。
ゲーム慣れしていない方や、
お子さんへのアプローチを考えていた当時、
「こりゃ~分かりやすくていいわ!」と思いましたね。

当時はDS発売前で、まだスマートフォンも普及しておらず、
タッチ操作が分かりやすい、というのは発見でした。
それもあって、DSにもボタンがたくさんついていますが
この時点で、「DS版はタッチしか使わない」
と決めました。

藤井さんはいかがでしょう。

藤井

僕も、実感はありました。
あと、教育の現場で気づいたのは、
お月謝が意外とかかるということ。

お金ですか(笑)。

藤井

ご家庭ごとに考え方はいろいろだと思いますが、
習い事に週に数回通うことは、
結構金銭的に負担があるんですよね。
なので、もっとお手軽で、
親と子どもが一緒に参加して楽しめて、
日々の学習の、まずは入り口になるようなものを
任天堂の製品として作れないものか?と思いました。

学習の入り口として、DSを活かそうとした訳ですね。

藤井

プリントとか、教材とか、
紙でできることじゃなくて、
デジタルの強みを活かす。

「音が出る」「動きが見える」って
子どもは大好きなんですよね。
それだけでやる気になるんです。

なるほど。確かにそうですね。

藤井

そういう子どもが好きな要素を取り入れて、
親子が一緒に参加して競い合えるような、
日常的なデジタルドリルが提供できれば
この課題を任天堂なりのやり方で解決できそうだ、と。

大きな気づきが、現地調査を通して得られたわけですね。

藤井

任天堂は「お客さまを笑顔に」することを目標にしていますが、
僕もゲームを企画するときは
遊んでいる時の気持ちをイメージするようにしています。

だから、この調査を通して
「幼稚園や小学校のお子さんと親御さんが
一緒に楽しくやっている」
という
イメージを持って作ろう、と思いました。

なるほど、原作の開発のきっかけが、よくわかりました。
ちなみに、今作のディレクターである久保さんの、『やわらかあたま塾』との出会いはいつだったんですか?

久保

僕はDS版の発売当時、まだ学生でした。
もちろんDSでゲームを遊んでいましたし、
こういうソフトがあることは知っていました。
でも実際に当時の自分が買って、やりこんでいたわけではありません。

あの、すみません・・・(笑)。

吉信

藤井

いいんですよ(笑)。

では、関わるようになったのは今回が初めて?

久保

はい。
今作のプロデューサーの河本さん※6から
「このソフトをSwitchでやらないか。」
と、お声がかかって、
それで初めて「じぶんごと」として意識しました。

※6河本浩一。企画制作部所属。「Nintendo Switch」の総合ディレクターで、『Nintendo Labo』『リングフィット アドベンチャー』等を担当するプロデューサー。

実際に、『やわらかあたま塾』を触ってみて、いかがでしたか。

久保

DS版とWii版をやってみて、
ゲーム好きの自分が遊んでも、
十分やりごたえのあるソフトだと感じました。

大人でゲーマーである久保さんにも楽しめるソフトだったんですね。

久保

はい。
それから、僕にも5歳の子どもがいるんですよ。
お受験の予定はないんですけど、
妻が幼児教育にとても熱心でして(笑)。

妻は子どもに「やらせる」のではなく
「一緒に学習する」スタイルなのですが、
僕自身もその様子を見ながら、
「親が管理者になってはいけない」ということを
実感していたんです。

ただ、妻は普段ゲームになじみのない人で・・・
幼児教育には興味があるけれど
ゲームに関心が薄い人にも
触ってもらえるソフトにできれば、と感じていました。

このソフトのことを考えるタイミングとしては、ぴったりだったんですね。

久保

はい。
自分の家庭に当てはめて考えたことで、
このゲームを、自分も含めて
家族で一緒に楽しめるものにしたい、
と思いました。

まさに藤井さんと吉信さんが、DS版を企画した時に持っていたイメージと合致しますね。
では、同じ『やわらかあたま塾』という作品を、今度はSwitchで開発するということで、どんなところを大切にしようと思われたのでしょうか。

久保

自分自身が面白いと思えるものか、
という視点は当然必要なんですけど、
「自分にとって最も身近なお客さんである
子どもと妻が一緒に、
本当に楽しんでくれるものになっているか?」
という視点を、大切にしました。

「子どもも大人も本気で楽しめる」というのは、
絶対に達成したいポイントだったんです。

なるほど、藤井さんや吉信さんと同じ経験を持つ親として、世代を超えて同じ想いを持たれたわけですね。
それでは、ここからは本題の今作について、詳しく伺っていこうと思います。