『開発者に訊きました ゼルダの伝説 知恵のかりもの』

2024.9.25

ゼルダ姫を旅に出す

今作の重要な要素として、「ゼルダ」シリーズで初めてゼルダ姫が冒険の主人公になりますね。

青沼

最初は主人公、リンクだったんですよ。
でも「カリモノ」の遊びを軸にしてリンクにフィールド上で
ものをコピー&ペーストさせていると、
剣と盾が邪魔になっちゃったんです。
だって剣と盾があったら、それで戦えばいい。
わざわざモンスターの力を借りる必要はないでしょう?

寺田

なので、最初は「カリモノ」だけを使えるようにして
この遊びを理解してもらい、
ゲームを進めると剣と盾が使えるようにすればどうだろう?と
試してみたのですが、それでも結局剣と盾を手に入れたら、
そこからはもう「カリモノ」は使わなくなってしまうだろうなって。

青沼

もうそんなのいつものゼルダじゃん、どうすんのって(笑)。

寺田

「カリモノ」と「剣と盾」、
両立させるには相性が悪かったんですよね。

「カリモノ」は出せるものの種類も豊富ですし、
じゃあこの遊びを最大限に活かすには・・・
もう「カリモノ」一本でやっていこう!って。

青沼

それなら剣も盾も使わない人じゃないとダメだよね?
それって「ゼルダ」シリーズだと誰になるの?
・・・じゃあもうゼルダ姫しかいないって。

でも長いシリーズの中で、初めてゼルダ姫を主人公にするって、勇気が必要だったんじゃないですか?

青沼

長い間「ゼルダ」シリーズをつくってきたなかで、
いろんな方から「ゼルダ姫は主人公にならないんですか?」
「ゼルダ姫でプレイしてみたいです」って、よく言われたんですよ。

そのたびに「その必然性さえあれば、もちろん」ってずっと思ってたし
そう答えてきました。
でもその必然性が何か、というのがなかなか見つからなくて・・・

で、今回みんながこの遊びにふさわしい主人公は誰だ?と悩んでいるのを見て、
ここでこの必然性を使うしかない!って。

なるほど、長年のテーマを解決するチャンスがやっと巡ってきたというわけですね。

青沼

とはいえゼルダ姫の衣装なんかもずいぶん悩みました。
冒険に出るということで普通に冒険服も検討したんですけど、
最初から冒険することが決まっていたかのように、
冒険服が用意されているのもおかしいなって。

過去作のゼルダ姫の衣装からふさわしいものを探してみたり。
でもなかなかピンとくるものがなくて・・・

最終的にフードを被っていますよね。

寺田

あれは今作の最初に出てくるリンクが被ってるフードなんですけど、
「たくさん冒険をして強くなったリンク」を表現したくて
被せたものです。

青沼

それで「今回のリンクの衣装はこれでいきます」って
見せてもらったときに、ふと
「ゼルダ姫だって顔を隠して旅に出るんだから
フードを被ればいいんじゃないの?」って
言ったんです。

ああ! ゼルダ姫が後でフードを被るから、リンクにフードを被せておこうと考えたのではなく、元々リンクがフード姿でデザインされていたんですね。

佐野

そうです。それに、リンクが着ていたフードを
ゼルダ姫が受け継ぐっていう話もエモくていいよねって。

青沼

リンクを探すというのも今回のゼルダ姫のテーマのひとつなので
フードを被ることでリンクを探す目的が常に
感じられるようになったのも良かったです。

ちなみにさっき剣と盾は邪魔という話をしたんですが
とはいえ剣と盾の遊びもやっぱりしたいよね、ということで
じゃあもうリンクの能力も「カリモノ」として
借りられたらいいんじゃないのってところから、
動画剣士モード」が生まれてきました。

なるほど。リンクとゼルダ姫のかかわりから、いろいろなものが生まれてきたんですね。ところでストーリーの方はいかがですか。ゼルダ姫が主人公となると考えなきゃいけないことがたくさんあるようにも思いますが。

青沼

そうですね、まずはゼルダ姫を冒険に出すのが大変でした。
リンクの場合、勇者という運命なので
モンスターがいればやっつけるために旅に出る
というので成り立つんですけど、
それがゼルダ姫の場合、王族なので、周りに戦える人がいるのに
なんで旅立たなきゃいけないの?
という部分を丁寧につくりこむ必要があって。

寺田

そうやって考えれば考えるほど、
なかなか姫が旅立たない(笑)。

青沼

ただモンスターがハイラルにいるだけでは
ゼルダ姫にとって自分自身が直接戦う
モチベーションにはならないんですよね。
じゃあどんな状況をつくったら姫が動けるんだって
いろんな案を出していくんですけど・・・

寺田

ゼルダを自分の子どものように思っているスタッフは
「まだ姫を冒険に出せない。」
「この状況ならまだ姫じゃなく自分がいく!」とか言ってましたね(笑)。

青沼

それで、フィールドに大きな裂け目が
たくさん現れるという設定にたどり着きました。
お姫様が見ても「これは大変! 何とかしなきゃ!」と思えるような
モンスターではない何かを出さなきゃって。

お姫様ってその国を統治する人の娘だから、
自分の国が壊されていく、ハイラルの世界が変えられてしまう、
というのが戦うモチベーションになるんじゃないかな、と。

佐野

裂け目・・・という設定は決まっても、
デザインがまた大変でしたよね。
裂け目の中には無の世界が広がっていて、
人やものが飲み込まれていくって設定ですが、
そんな場所誰も見たことがないですし。

「地割れが起きて、その底は無の世界なんです」
と口で言うのは簡単ですが、
実際に表現をつくるグレッゾのデザイナーさんは
どんな動きで広がるの? 穴の深さは? 断面の表現は?
・・・と頭を抱えますよね(笑)。

寺田

しかも、それがフィールドのいろんなところに出てくるので、
地面や建物の上はもちろん、
水の上や溶岩の中など、どんな場所にも置ける必要があります。

またレベルデザインに応じて場所を気軽に変えたり
ストーリーの流れでいつでも出したり消したりできるように
つくらなくてはならない、という条件で。

そんな中で新しい表現を生み出すというのは
とても大変でした。

裂け目の中はフィールドとは異なる不思議な空間が広がっていますよね。

青沼

普段戦わない人物が主役の世界で、
残酷な表現はしたくなかったんですけど、
それでもハイラルに迫る危機感は感じてもらわなきゃいけないので
表現がなかなか難しかったです。

佐野

ゼルダ姫が旅に出る一番のモチベーションになる
「王様が裂け目に飲み込まれる」というシーンも
かなり表現は迷いましたね。

寺田

最初の舞台設定を決めるのも大変でしたけど、
じゃあこのゲームの中でリンクはどういう役割なのかとか、
「カリモノ」が軸なら剣はどうなるのとか、
このキャラクターは今作に存在していいのか、とか・・・

「ゼルダ」シリーズには壮大な歴史の系譜があるので
なんというか、そのゼルダの伝承にどこまで踏み込んでよいのか・・・

確かにシリーズ全体をつなぐハイラルの歴史がありますよね。あまり自由につくりすぎると「ゼルダらしいもの」になっているか気を遣うように思います。

青沼

そう、そこに追加や変更を加えるさじ加減ってすごく難しいんですよ。
最初はハイラルの歴史に踏み込んでしまいそうな部分を
あえてぼやかして進めていたんですけど、
途中からどうしてもそれじゃ前に進めなくなって・・・
昨年の夏頃に「合宿をして、そこでストーリーを詰めましょう」って。

寺田

あれは本当に合宿でしたね。

青沼

そこでも最初グレッゾさん側からは
なかなか踏み込んだストーリーの提案はなかったので。

僕がホテルに戻ってひとりで「こういう話なら成立する」
という台本をガーっと書いて、翌日持って行って。
その台本にみんなでシリーズによく出てくるいろんな要素を
足していって、ようやくストーリーができあがった。

佐野

朝から晩まで3日間の合宿を、3セット(笑)。

青沼

最近は、僕らですらゼルダの歴史に
触れるのは簡単ではないんですよ(笑)。

ゼルダの歴史に触れるというのは、
過去のシリーズで何がどう表現されてきたのかというのを
当然意識しないといけないのですが、
新しいゲームを考えるうえでは、
それを踏襲しながら新しい展開も考えないといけないので、
普通に考えるだけでは
どんどんできることの幅が狭くなってきてしまうんですね。

しかも長くシリーズを続けてきた分、
その歴史についてはお客さまも興味を持たれている。
だから僕らが遊びを優先して辻褄の合わないストーリー展開をしてしまうと
「それはおかしい」と言われてしまう、ということが過去にもあって。

つくってる側は特におかしな変更を加えたつもりはなくても、
ああ、そうか、そういう風に解釈されるのか・・・と。

なるほど、そういうお客さまの反応も考えながらストーリーをつくっていく必要があるんですね。

青沼

今回も、歴史の中に新説を立てたつもりはないんです。
リンクは毎回冒険の旅に出ていろいろ経験するけど、
ゼルダ姫って、「ゼルダ」シリーズにおいては
どうしても一歩退いた立場を取らないといけなかったじゃないですか。

でも今回はゼルダ姫が冒険することで
物語の視点も今までとは違うものにできました。
だからこそストーリー面でも、新しさを出せたんじゃないかと思います。