『開発者に訊きました ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』

2023.5.11

本文内に掲載の画像、映像は開発中のものを含みます。

変えるもの、変えないもの

任天堂のモノづくりに対する考えやこだわりを、
開発者みずからの言葉でお伝えする
「開発者に訊きました」の第9回として、
5月12日(金)に発売となる『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』の
開発者のみなさんに話を訊いてみました。
まず、簡単に自己紹介をお願いできますか。

青沼

「ゼルダの伝説」シリーズのプロデューサー、青沼です。
シリーズで最初に関わったのは
『時のオカリナ』※1のダンジョン設計ですが、
『トワイライトプリンセス』※2では
ディレクションとプロデュース、
それ以降はプロデューサーとして
ずっとシリーズに関わっています。

※1『ゼルダの伝説 時のオカリナ』。1998年11月にNINTENDO 64用ソフトとして発売。リンクの子ども時代と大人時代、2つの時間を行き来する物語が特長。

※2『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』。2006年12月にWii・ニンテンドーゲームキューブ用ソフトとして発売。影の世界「トワイライト」ではリンクは獣の姿となって行動する。

藤林

ディレクターの藤林です。
『スカイウォードソード』※3、前作『ブレス オブ ザ ワイルド』※4から引き続き、
今作『ティアーズ オブ ザ キングダム』でも
ゲームの土台や基礎となるアイデアを提案し
制作チーム全体を指揮する、ディレクターを担当しました。

※3『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』。2011年11月にWii用ソフトとして発売。Wiiリモコンプラス・Wiiモーションプラスを活かした直感的な操作が特長。2021年7月にNintendo Switch用ソフトとしてリメイク版の『ゼルダの伝説 スカイウォードソード HD』も発売。

※4『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』。2017年3月にNintendo Switch・Wii U用ソフトとして発売。100年の眠りから覚めた主人公リンクとなり、広大で危険なハイラルの大地を駆けて生き抜き、記憶を取り戻していく。今作『ティアーズ オブ ザ キングダム』はその続編となる。

堂田

テクニカルディレクターの堂田です。
ゼルダシリーズにはいろいろな形で関わってきましたが
イチからつくったのは『ブレス オブ ザ ワイルド』が初めてでした。
今作でも引き続きゲーム全体の技術面の
ディレクションを担当しました。

滝澤

アートディレクターの滝澤です。
『時のオカリナ』で初めてゼルダシリーズに参加して以降、
アート担当として『風のタクト』※5
『トワイライトプリンセス』などに関わってきました。
『ブレス オブ ザ ワイルド』から引き続き
ビジュアル周りのとりまとめを担当しました。

※5『ゼルダの伝説 風のタクト』。2002年12月にニンテンドーゲームキューブ用ソフトとして発売。不思議なタクトで風を操って帆船で大海原を渡り、島々を冒険する。

若井

サウンドディレクターの若井です。
ゼルダシリーズには『風のタクト』で
作曲担当として初めて参加しました。
『スカイウォードソード』からは
サウンドディレクターとして関わっています。

ありがとうございます。それでは改めてになりますが、
青沼さんから「ゼルダの伝説」シリーズの簡単なご説明をお願いできますか。

青沼

はい。「ゼルダの伝説」シリーズは、
神の力を宿したハイラル王国を舞台として、
プレイヤーの分身であるリンクという主人公が、
その力を手に入れようと暗躍するガノンドロフなどと戦って、
また、その力を宿す宿命をもつゼルダ姫を助ける、
アクションと謎解きが特長のゲームです。

今作『ティアーズ オブ ザ キングダム』は、
2017年発売の『ブレス オブ ザ ワイルド』の正統な続編で
ふたたび広大なハイラルを舞台に
前作をクリアした後の世界からお話が始まります。

今作は前作をクリアした後からスタートするんですね。

青沼

はい。
今作は前作のエンディング後から
しばらく経った世界を舞台としています。

そう設定した理由はいろいろあるのですが、
前作の開発が終わったときに
「ゲームのエンディングを迎えた後の世界を遊ぶ」ってことが
実現できないかな?と思っていたので。

「ゼルダの伝説」シリーズといえば、毎回ビジュアルやゲームシステムが
大きく変わることが多いシリーズのように思います。
今回続編という選択ではなく、まったく新しい舞台に変えて、
新作をつくるという話にはならなかったんですね。

青沼

そうならなかったですね。

前作の『ブレス オブ ザ ワイルド』は
一本のゲームとして完結していますが、
その完結したフィールドに
さらに“新しくやりたいこと”がたくさん見えてきたので、
続編をつくるということを変えようとは思いませんでした。

藤林

“勝手知ったる”じゃないですが
「どこに何があるか?」がわかっている状態だからこそ
つくりたい新しい遊びが実現できると感じていました。

だから、最初に書いた企画書には、重要なコンセプトとして
「フィールドは変えない」と大きく明記していましたし、
ここにいるメンバーに話したときも異論は出ず、
当時から思いは一致していましたね。

堂田

僕は『Wii Sports Resort』※6の開発のときに
「ウーフーアイランド」のプログラムを担当していたんですけど、
そのときに宮本さんが「舞台をキャラクター化したい」と
おっしゃっていた
のを思い出しました。

ひとつの島をつくって、それをベースに違うゲームで
いろんな遊びをのせるっていうことなんですけど、
同じフィールドなのに新しい発見がある
・・・というのがすごく印象的で。

これをほかのタイトルでもやってみたいなと思っていましたし、
今作はそういうアプローチになるのかなと想像していました。

※6『Wii Sports Resort』。2009年6月にWii用ソフトとして発売。南国のリゾート島「ウーフーアイランド」を舞台に、チャンバラ、スカイレジャーなど12の遊びが楽しめる。

なるほど。続編であり、かつ同じフィールドを使うというのは、
あえての選択だったということですね。

堂田

はい。
ですので、逆に遊びに関しては
かなり挑戦的に変化を出しました。

『スカイウォードソード』では
空から大地への移動はマップセレクトを経由せざるを得なかったのですが
今作では空からダイビングしても途切れることなく
直接大地に降りられるようにつくっています。

また、空飛ぶ乗り物を使って移動したりと、
前作と同じフィールドでありながらも、
さらに自由度が高くなっています。

自由に飛んで、好きなところに降り立って
・・・っていうのも、まったく知らない場所だと
空から降りるのに躊躇(ちゅうちょ)しますけど、
前作ですでに体験したフィールドだからこそ
成り立つ移動手段ですよね。

たしかに空から途切れることなく大地までダイビングできて、
池に飛び込めるというのは気持ちよいですね。
今作はまさに「オープンエア」な気がします。

堂田

空からのダイビングは、青沼さんや藤林さんの執念もありましたよね(笑)。

藤林

うん。『スカイウォードソード』のときから
ずっと実現したかったんだよね・・・
空から飛び降りて、水に飛び込めたら絶対気持ちいいだろうなって。

今作のダイビングは、
爽快感あるシームレスな移動を楽しめるだけでなく、
上空から地上を広く見渡すことで、
地上のいろんな情報を集めるという意味も持たせられたし。

なるほど、確かに気持ちいいだけではないですね(笑)。
空から見渡す、空から降りるというのが遊びの幅を広げていると。

青沼

はい。
ただ、こういう話をすると
「前作を遊んでいなくて、フィールドを知らない人は楽しめないの?」と
思われてしまいそうなんですけど、
今作で新しくつくった遊びは
解き方を直感的に思いつくことができるものばかりなので
初めての方にも遊びやすいものになっていると思います。

藤林

ストーリーについても同じですね。
初めてプレイされる方でも、前作経験者の方でも、
どちらの方にも違和感がないように工夫しています。

例えば、プレイ中にいつでもみられる
「人物名鑑」というものを用意していて、
前作の経緯を知らなくても、
スッと相手との関係がわかるようにしています。

逆に前作をプレイした方が読むと
「ああ、あのことか」とニヤッとしてもらえる内容もあるので
楽しんでいただけるのではないかと。

続編ということで、前作が土台になっていますけど、
初めての方にもいろんな配慮があるということですね。
ところで、前作と同じ世界となると、
グラフィックやサウンドは違いを出す工夫がいるのではないですか。

滝澤

同じ世界に新しいものを盛り込むことって、
実はイチからつくるより難しかったんだ・・・
というのを痛感しましたね。

前作と同じ世界ではあるんですけど、
お客さまには新しいワンダーを楽しんでほしいわけです。

そうなると、前作で最適解だと思って
デザインしたモノで構成された世界に、
今度はそのデザインの方向性を変えた新しいワンダーを
のっけて行かなきゃならない。
しかも、「この世界を破綻させず」に。
前回、あんなにキリキリ考えて
この世界にまとめたのに!っていう(笑)。

もちろん開発スタッフ視点では、
新しいワンダーを作っていく方が断然楽しいんですけど、
難易度の高い開発だったのは確かですね。

若井

BGMについては、
前作でシリーズの「アタリマエを見直し」て
ピアノの音色をメインとしていたんですけど、
今作ではそのピアノの音色を引き継ぎつつ、
その中で、続編でありながら新しさをどうやって出すのかは悩みました。

SE(効果音)は前作とは異なるまったく新しいシステムで動かしていて、
前作と同じ音であっても、
より現実世界に近い聞こえ方になっています。

例えば前作では、鳥の声など、比較的近くの環境音が
リアルに聞こえるようにしていたんですが、
動画今作では、さらに遠くで鳴いている鳥の声の距離感が
リアルに感じられるように表現力が上がっています

それぞれ担当されるセクションで、
前作を軸にしながら新しいことにチャレンジされていったわけですね。

藤林

何を変えて、何を変えないのか。
これにエネルギーを使いましたね。