みなさん、こんにちは! ライターの左尾昭典と申します。
私はちょうど20年前に、ゲーム専門誌の「64ドリーム」(現ニンテンドードリーム)を創刊し、ずっと編集長として関わってきたのですが、数年前に訳あって戦線を離脱。その後、一度は住んでみたいと願っていた古都・京都に本拠地を移し(任天堂本社も近くにあります)、雑誌や書籍、ウェブなどの企画に関わりながら、フリーライターとして(やとわれ遊撃隊みたいな感じ?)活動を続けています。
さて、そんな私に届いた指令は、4月21日(木)に、Wii Uソフトとして発売される『スターフォックス ゼロ』のインタビュー。このゲームのプロデューサー兼スーパーバイジングディレクターの宮本茂(※)さんと、ディレクターの林悠吾さんから開発秘話が聞けるというので、任天堂に行ってきました。
※ 宮本茂=任天堂専務取締役 クリエイティブフェロー。『スーパーマリオ』『ゼルダの伝説』シリーズの生みの親。
これから3回にわたってお届けする本企画。まず最初のテーマは「臨場感とかっこよさを求めて」です。いかにして新作『スターフォックス』の臨場感が増したのか、「かっこよさ」へのこだわりはどんなところにあるのか、2人のディレクターに迫ってみましたので、じっくりお読みください。それでは出撃!
臨場感とかっこよさを求めて
『スターフォックス』とボイスの相性
NINTENDO64(以下、N64)の『スターフォックス64』が発売されたのは、19年前のちょうど今ごろでした。その発売直前に開かれた東京ゲームショウで、宮本さんはゲストとしてカンファレンスに出られましたけど、そのことは覚えてらっしゃいますか?
宮本
東京ゲームショウでカンファレンス・・・そんなのやりましたっけ?
覚えてませんか?
宮本
(首をかしげながら)うーん、覚えてないですね・・・。
まあ、19年も前の話ですから、覚えていないのも当然ですよね(笑)。で、そのカンファレンスが終わったあと、宮本さんのインタビューができることになり、そのとき『スターフォックス64』の話をお聞きしたんです。
宮本
はい。
最初にまず、ゲームの難易度についてお聞きしまして、そのあと僕が「今回はよくしゃべりますね」と言ったんです。すると宮本さんは、「僕、話が長いよね。カンファレンスに出て、興奮してるのかなあ」とおっしゃったんですが、僕が言いたかったのは、「『スターフォックス64』のキャラクターがよくしゃべりますね」ということだったんです(笑)。
宮本
よくしゃべるのは僕じゃなくって、『スターフォックス64』だったんですね(笑)。
はい(笑)。で、その「しゃべる」というのは、『スターフォックス』というゲームにとっては、すごく重要なことなんですよね。あの当時は、キャラクターがよくしゃべるという傾向にありましたけど・・・。
宮本
そうですね。あの当時、声優さんを使ってしゃべらせるというのがトレンドとしてありましたけど、僕的にはゲームに関係の薄いことや、何度も同じことを話されたりがじれったくて、「しゃべらないほうがいいんじゃないか」と思うことがあったんです。
ゲームを遊びたいのに、話が長々と続くこともありましたね。
宮本
でも、『スターフォックス64』とボイスはすごく相性がいいと思ったんです。
シューティングゲームだと、画面に文字を出しても、読む余裕はありませんけど、 ボイスにすれば、ヒントを聞くこともできて、攻略の糸口を見つけたりすることもできますからね。
宮本
そこで、必要な情報を、短くしゃべらせようと。テンポが速くてスピード感が味わえるゲームですので、スパッと言い切るような短いセリフにすることも大事なんですね。しかも、「上だ!」とか「後方の敵に気をつけろ」とか、かけ声としての機能もあって、遊んでいてもかっこいいと感じるんです。
もともと3Dのシューティングゲームでは、画面に映らない後方の敵から攻撃されるのは御法度だと思うんですけど、「後方の敵に気をつけろ」と言わせることで、後ろから襲われても、ちゃんと対応できたりしますしね。
宮本
そうです。キャラクターにしゃべらせることで、遊びの幅が大きく広がりましたね。
でも、そもそも後方から襲ってくるってすごく卑怯な敵ですよね。
宮本
そこで、 ブレーキを使ったり、宙返りをして敵の背後にまわりこんでから一撃する とスカッとするんです(笑)。
なるほど。すると「ざまあみろ」と言いたくなるんですよね。スリッピーお得意のセリフじゃないですけど(笑)。
まるでコックピットに座っているかのように
林さんは今作のディレクターですけど、『スターフォックス64』が発売されたときは・・・?
宮本
まだ生まれてなかった?
林
いえいえ(笑)。高校生でした。その当時、攻略本を買ってまで遊ぶくらい、夢中になって『スターフォックス64』をプレイしていました。みんなで集まって対戦を楽しんだりもしましたし。
高校生だった林さんは、その当時、『スターフォックス64』を遊んで、どんな印象を持ちましたか?
林
最初はむずかしいかな、と感じたんですけど、プレイしていくうちにどんどん上達するのがわかったんです。新しいルートを見つけられたり、もっと高い点数を、ということで、どんどんのめり込んでいったことをよく覚えています。「今日は何点とった」ということで、その日の自分の体調がわかるくらい、毎日プレイしていましたね。
宮本
だから、僕よりも『スターフォックス64』に詳しかったりするので、すごく助かったんです(笑)。
林
(笑)。さきほどのボイスに関して言いますと、シューティングゲームってテンポが速いですし、攻撃のタイミングが重要になるなかで、次々に聞こえてくるボイスが短いので、ゲームプレイのじゃまにならないんです。しかも、ストーリーをしっかり感じることができて、臨場感を味わいながらプレイできました。
その“臨場感”の話なんですけど、今作の『スターフォックス ゼロ』のボイスでは新しいシステムが導入されて、さらに臨場感が増していますよね。最初に聞いたときは本当にびっくりしました。味方や敵の声が耳のそばで聞こえてきたものですから・・・。
宮本
あれ、不思議でしょう。
すごく不思議です。なんだか高級ヘッドフォンを付けているような感じもして・・・。
宮本
世の中にはいろんな立体音響の技術があるんですけど、今回の技術はすごく特殊で、Wii U GamePadを手に持ってスピーカーと耳の距離を一定にすることで、まるで耳元でささやくような音響にできるんです。
林
今回のフォックスは、片方の目を覆うバイザーを頭に装着しているのですが、この音響技術を使うことで、ほかのキャラクターのしゃべる声に、そのバイザー装置から聞こえてくるような現実感を出したかったんです。
だから、まるで本物の通信をしてるような、自分がアーウィンのコックピットに座っているかのような感覚を味わえるんですよね。
宮本
左からは敵、右からは味方の声が入ってきたりとかしますからね。
林
なので、『スターフォックス64』よりも今作のほうが、臨場感がさらに増したのかなと思います。
「かっこいいシーンを見たい」
そもそもどうして『スターフォックス』の新作をつくろうと考えたのですか?
宮本
かっこいいシーンを見たいと思ったんです。
かっこいいシーン、というのは?
宮本
子どもの頃に、プラモデルの飛行機を手に持って、それを目の前で動かしながら、こんなふうに・・・(手をくねくね動かしながら)遊んだりしていましたよね。ブーンとか言いながら。
はいはい。飛行機ごっこですね(笑)。
宮本
そういう遊びをしながら「かっこいい」とか言ってたわけですよね、子ども時代は。
はい。自分でかっこよく見えるアングルを見つけては、喜んでいましたね。
宮本
で、Wii Uは、テレビとWii U GamePadの2画面が使えますので、それぞれに別のカメラの映像を、リアルタイムに映したいと考えたんです。そこで、管制塔からラジコン飛行機を飛ばしながら、その飛行機のコックピットから管制塔はどのように見えるのか、というような実験をしてみたんです。
まずは、カメラの実験をしてみたんですね。
宮本
すると、管制塔から見ているほうがかっこいいんです。たとえばレースゲームでもそうですよね。ゲームをするときは、運転席から見える映像でプレイするわけですけど、リプレイで見られるデモシーンのほうがかっこよかったりするじゃないですか。
たしかにそうです。
宮本
そこで、テレビとWii U GamePadの2画面のシステムを使うことで、テレビ画面には戦闘機のアーウィンが飛ぶかっこいいシーンを映し、Wii U GamePadの画面にはコックピットからの映像を見られるようにしてみたんです。
ターゲットを攻撃するときは、Wii U GamePadのジャイロ操作のほうが狙いやすかったりしますよね。
宮本
ええ。なので、その場面場面で、好きなほうを見ながらプレイすればいいようにしようと。それに、周りの人もかっこいいシーンを観ることができたら楽しいですしね。だから、「Wii Uでは、新しい『スターフォックス』をつくる以外、考えられないよね」という話に落ち着きました。
なるほど。林さんはどんなシーンがかっこいいと思いましたか?
林
たとえば、最初の「コーネリア」というステージでは、敵の巨大戦艦のボスが出てきますよね。
はい。その戦艦のレーザー砲のようなものを破壊すると、少しずつ壊れて落下しますよね。
林
そのときに、その下を飛んでいて、大きな破片が、ガーンと当たったりすると、すごく理不尽に感じるんです。
Wii U GamePadのコックピット視点で操作していると、何が当たったのか、わからないんですね。
林
でも、もう一方の、全体を映す視点で見れば、わざと下をくぐって、落ちてくる破片を避けながら飛ぶこともできて、それがすごくかっこいいんです。
宮本
なので、ボスを倒したらおしまい、というのではなくって、同じステージを何度も遊びながら、自分だけのかっこいいシーンを見つけることも、今回の『スターフォックス ゼロ』の楽しみかたのひとつになっていると思います。
直感的に遊べる操作性
もともと今作の開発には、Wii U GamePadを活かす、という命題があったんですよね。
宮本
そうですね。Wii U GamePadには2本のスティックが付いているので、すごく直感的に操作できるんです。N64版のときは、ブーストとかブレーキなどの操作をボタンに割り当てていましたけど・・・。
林
でも今回は、ブーストは右スティックを前に、ブレーキは手前に倒すだけでいいんです。
なので、ブレーキはどのボタンだったかな、と迷うことなく、まさに直感的に遊べるんですね。
宮本
ええ。そのスティック2本のほかには、ZRボタンで撃つ、ジャイロで狙うとさらに直感的という、すごくシンプルな操作になっています。たまにAボタンを使って、マシンを変形させるくらいで。
それでも、1つずつ説明を聞いていると、触ったことのない人にとっては、ちょっと複雑に感じるかもしれないですね。
林
なので、いきなり戦闘に出るのもいいんですけど、まずはトレーニングモードをやるのもいいのかもしれません。
宮本
あ、そうですね。トレーニングモードをちゃんと遊んで、理解していただくと、作戦が思いつきやすくなるでしょうね。
林
ただ、そのトレーニングモードに関しては、最初から全部のマシンを見せてもいいんだろうか、という話もあったんです。
まだ遊んでいないステージに登場するマシンも、事前に動かせるようになっていますからね。
林
そうなんです。
宮本
そこは迷ったんですけど、いきなりステージに飛び込んで、そのときに初めてマシンを触るとなると、どうやって操作したらいいのか、対応できないですよね。そもそも開発の当初は、操作を聞かなくても動かしかたはなんとなくわかるんじゃないかということで、「フォックス、あなたなら操作がわかるでしょう」というセリフを入れたりしていたんです。
初めてのマシンを操作するときに、ですか?(笑)
宮本
はい。けど、開発の終盤にトレーニングモードをつくったので、このセリフはそのままOKになりました(笑)。途中で、このセリフをどうしようかと迷ったこともあったんですけど、前もってこのセリフを録っておいてよかったと思いました。
たしかに、最初にトレーニングモードを遊んでいれば、そう言われても違和感ないですものね。
宮本
はい。ですので、これからこのゲームを遊ぶみなさんは、まずはトレーニングモードで遊ぶことをオススメします。
- [第1回] 臨場感とかっこよさを求めて
- [第2回] 新しいマシンで広がる遊び
- [第3回] 開発へのこだわり
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