『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』

2024.12.5

本インタビューはソフトの発売前に実施しています。

「つなぐ」がいろいろな要素とマッチし始めた

今作ならではの表現や舞台を定義するのにかなり時間がかかったようですが、今作の軸となる遊びやストーリーの部分はどのようにつくっていったのでしょうか。

福島

遊びの軸となる部分はアクワイアさんが
最初にもってきてくれたアイデアがすごく良くて、
まずは試作をつくっていただきました。

その当時の企画書にはこうありました。
「自分だけのマリオストーリー。漂流する島での生活と冒険」。

大橋

漂流島っておもしろそうだなって思ったんですよね。
島を見つけて、冒険して、島民と仲間になって。
さらに島と島をくっつけて、つなげていって、
一緒に冒険する仲間が増えていったら面白そうだなって。

大谷

悔しいですけど、良いアイデアでした。
任天堂側のスタッフだけで考えていたときはそんな案出ませんでしたよ。
そもそも島と島をくっつける遊びなんて、
普通思いつかないでしょう(笑)。

大橋

ただ、先ほど話していた「マリオ&ルイージRPGらしさ」を
つかむのにかなり時間がかかったので
この新しい要素の検証は後回しになっちゃって・・・。

どうすればこの漂流島の遊びを面白くできるだろうか、と
検討を重ねているうちに
任天堂さんに具体的に提示するのが遅くなってしまったし、
その分、任天堂さんは不安だったと思います。

大谷

正直、焦ってましたね。
福島さんと一緒に「これ、いつくらいにできるのかな・・・」って(笑)。

福島

でも大橋さんはじっくり考えて、自分の中で十分納得してから
答えを出すタイプなので、そこは信頼していました。
いつまで待てるかという作戦会議はよくやっていましたが(笑)。

大橋

今回はマリオたちの冒険の拠点になる「船島」があって、
この「船島」が海を漂いながら、
いろんな島に近づいて冒険していくんですけど、
どういうふうに大海原を巡らせるかとか、
そういうシステム部分がなかなか完成しなかったんですよね。

福島

遊びとストーリーの方向性って
開発序盤に短期間で決めて、そこから細かな部分を詰めていくんですけど、
今回は想定以上に時間がかかってしまいました。

僕らはその間、船島が漂流する遊びの仕組みや、
島のテーマや数などのボリューム感が確定しないまま
フィールドのアクションやバトルの内容を検討していて・・・
それが結構雲をつかむようで大変でしたね。

大谷

両社のつくり方の違いというのも大きかったです。
シリーズ過去作では、いつも遊びを最初につくってから、
その遊びを活かせるようにストーリーのあらすじとなるプロットを
考えていたので、すべての進行をディレクターがリードしていたんです。

でもアクワイアさんのつくり方は
ディレクターである大橋さんが島が漂流する遊びを考えて、
それとは別に外部のシナリオ会社さんが同時にシナリオを考えている・・・
というやり方でした。

でも、やっぱりRPGですから、
お話と遊びがひとつにまとまっていないと
先に進められないんですよね。

大橋

シナリオ会社さんの方でも
「マリオ&ルイージRPGらしさ」をつかむのに苦労されていました。
ばっちりハマるストーリーが出てこないんです。

でも、どこかにそれらを解決するブレイクスルーとなるポイントがあったということですよね。

大橋

・・・僕は、あの頃だと思うんです。
ほら、シナリオのプロットを一緒に考えてるときに、
海域ごとのテーマを決めたじゃないですか。
第一海域は家族、第二海域は仲間・・・って。

福島

確かにそれが「つなぐ」っていうキーワードが
いろいろな要素とマッチし始めたタイミングですよね。
島をつなげる遊びだけど、その中に人と人のつながりがある。

大橋

その同じくらいの時期に
島が漂流する機能ができあがってきたんですよね。
シナリオでも人と人を「つなぐ」っていう流れが見えてきて
「つなぐ」ということがこのゲームのテーマとして確立されてきたというか。

古田

島と島のフィールドどうしを物理的にくっつけるとなると、
やっぱりシステムも、つくらなければならないデータも
膨大になってしまうので、これは無理かもしれない・・・
と思っているときでした。

それじゃあ紐か何かで間をつなぐのがいいんじゃないかと
発想を変えて方向転換したんです。

そこで紐状でつなぐものって・・・という案出しをいろいろ行った中で
「電源プラグをコンセントに挿したら紐状につながって、
その中を電気が通って、何か良いことが起こる」
というアイデアが出てきて。

「良いことが起きれば、人と人のきずなも生まれる」
ということで、プラグをつなぐというアイデアが
システム面の困難をクリアにできるし、ストーリーにも使える。
・・・私はこの発見が転機だったように思います。

福島

電源プラグとか、ケーブルとか、
身近で物理的にイメージしやすいモチーフができると、
みんなの意識がそろって
設定に沿ったゲーム内容のネタ出しなどが
スムーズに進むようになりました。

大谷

プラグの前は虹でしたもんね(笑)。

古田

虹の橋、ですね。
最初は各島に橋を架けてつないでいたんですけど、
より本作らしい表現にできて良かったです。

大谷

「マリオ&ルイージRPG」は、遊びの内容とゲーム全体のテーマを
シンプルに合わせて、小難しいゲームに見えないようにしています。
それに、マリオのゲームでもあるので、ストーリーもわかりやすくなるように
心がけています。

今回は漂流する船島とほかの島をくっつけるという遊びと、
人と人をつなぐというストーリーで
「つなぐ」とか「絆」といったところがテーマになってくる。

もちろん、それをプレイヤーにわかりやすく伝えていく方法の
工夫っていうのはまた別に必要なんですけどね。

なるほど。確かに実際にプレイしていても、「つなぐ」というのが一貫して随所に感じられるように思いました。ただ、そこにたどり着くまでには長い試行錯誤があったということですね。ところで、「つなぐ」といえば、主役のマリオとルイージにもガッチリとつながれた「絆」があるわけですが、そちらの表現についてはいかがですか。

大谷

もともとこのシリーズはマリオとルイージの協力アクションが
特長なんですけど、今作ではそれをより強化したいと思っていました。

これまでのシリーズ作では2人がセットになって行動していて
AボタンとBボタンを押して、2人で一緒にジャンプしたりしていたんですが、
今作では新しさを出すためにルイージは自律行動させています。
オートでジャンプしてついてきてくれるので、
遊びやすくなっていると思います。

さらに「どんなに離れていてもルイージはちゃんと協力してくれる」
っていう遊びもフィールドの中に入れることにしました。
それが今作の新しい要素動画「ルイージセンス」です。

近くにいても、遠くにいても、
2人は協力してアクションしてるっていうのが
表現されています。

福島

マリオとルイージの協力感はこれまでよりも強調されていますね。
バトルの通常攻撃もそうですし、
フィールドでも2人だからこそできること、ということで
動画ボールになったり動画UFOになったり

風変わりなアクションもあるんですけど、
そういうのもすべて包み込めてしまうのがこのシリーズの特長で、
2人の協力アクションのバリエーションによって
攻略の幅も広がったと思います。

そういえばマリオとルイージの「絆」で思い出しましたが、初出映像でオープニングの部分が流れたとき、映画の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を思い出した方もおられたのではないかと思います。今作のオープニングの演出は、映画を意識したものだったのでしょうか。

大谷

それが、意識してつくったものではないんです。
というより、当時の僕たちはマリオ映画の情報を何も知らなくて。
おそらく映画でも兄弟としての絆が描かれるだろうけれど、
そこの描き方は気にしないで、
あくまで「マリオ&ルイージRPG」としての表現を
つくることに注力していこう、と思ってたら・・・

・・・まあ、オープニングはけっこう似てるって言われましたね(笑)。

一同

(笑)。

大橋

映画を見て、びっくりしました(笑)。

古田

やられた~!って感じでしたね(笑)。

大谷

まさに、タップーがゲーム中で言っているように
「偶然にも程があるな」という感じでした。

大橋

でもまあ、土台は同じ「兄弟の絆」ですしね。

大谷

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の公開は
こちらとしてもすごく嬉しかったです。
映画を観たお客さまが
「マリオとルイージが出てくるゲームをやってみようかな」と
思ってくださったら、すごくありがたいなと思います。

映画を観てマリオたちキャラクターの特長をくわしく知ったという方は増えたと思います。マリオとルイージの性格や絆をよく知ったうえで遊ぶと、今作の印象も変わるかもしれませんね。

大谷

そうですね。もちろん、映画をご覧になっていなくても
十分楽しんでいただくことができるお話になっています。

「マリオ&ルイージRPG」シリーズは、
今までどこかのんびりした雰囲気が漂うお話が多かったんですけど、
今作のストーリーはややシリアスな内容になっています。
とくに後半部分はマリオとルイージの
ヒーローらしさを感じていただけるのではないかと。

大橋

マリオっていうのは遊ばれるお客さまの分身なわけで。
置かれている環境がシリアスで厳しい状況であれば、
そこを脱したときの喜びも
その分大きくなるんじゃないかなと。

だからこれまでのシリーズ作以上の
兄弟の「絆」が表現できるのでは、
と思ったんです。

あとは・・・やっぱりこれまでとは違ったものをつくって
新しい体験、魅力を生み出したかったんですよね。

そこは新しいものにチャレンジするアクワイアさんらしさですね。

福島

もうひとつ、ストーリー面で大橋さんがこだわっていたのが
マリオたちの拠点となる船島にいろんな島をつなげていくと、
ほかの島の住民たちがやってきて、
だんだんそこがにぎやかになっていくっていう変化ですよね。

大橋

そうですね。
マリオとルイージ、つまりお客さまが遊んだ結果として
船島がにぎやかになっていく、住民が喜んでくれる、
というフィードバックを返したかったんです。

つなげた島でつながった人たちの後押しがあって
困難を乗り越えることができた、っていう体験が
あるといいなと思ったんです。
誰かに支えられている喜びや、
みんなで支えあうような絆も感じてもらえたらなって。

福島

今回、サブタイトルが「ブラザーシップ」なんですけど、
これはアクワイアさんとお互いに名前の候補を出し合って、
100以上も出したアイデアの中から選んだもので。
本作のテーマにぴったりな案が出たと感じます。

兄弟の絆、を意味しているんですけど、
いろんな島をつなぐ船島の「船(シップ)」にもかけているんです。

大谷

「マリオ&ルイージRPG」シリーズは
今まで日本語と英語で異なるタイトル名をつけていたんですけど、
今回は日本語も英語も同じ「ブラザーシップ」でいくことにしました。

福島

英語で「母船」を意味する「マザーシップ」とのシャレのようにも
聞こえるということで、
北米や欧州のスタッフからも好評でしたよね。
拠点となる船島は、まさに母船ともいえるので。