『開発者に訊きました ニンテンドーサウンドクロック Alarmo』

2024.10.9

本文内に掲載の画像、映像は開発中のものを含みます。

部門横断でものづくりをする難しさ

今回のプロジェクトはソフトとハードの開発者が一丸となって取り組まれたようですが、ほかの商品でも両方の開発者が一緒にプロジェクトを進めることはよくあるのでしょうか。

田守

今回の赤間さんのようにハードの開発者が
ソフト開発も伴う商品のディレクターを担うことはあまりないのですが、
例えば『リングフィット アドベンチャー』※3の開発では、
ソフト側から「こんな遊びをつくりたいけど、
それに合ったハードウェアを用意できないかな」という相談を
ハード側にしていました。

実際に世の中に出ていかないこともあるのですが、
ソフト・ハード一体で交流しながら商品開発を行っています。

※32019年10月に発売したNintendo Switch用ソフト。付属の「リングコン」と「レッグバンド」にJoy-Conをセットし、全身を動かしながら遊ぶ、フィットネスアドベンチャーゲーム。

とはいえ、通常のゲームソフトの開発とは、進めかたがまったく異なりそうです。

田守

全然違いますね。
しかも、今回の場合は、ハードとソフトの開発者に加え、
その間をつなぐシステムソフトと呼ばれる部門の開発者と
3つの部門が一体になって初期段階から開発を行っています。
製品本体や機械部分を設計するハード開発、
うごきセンサーや内部のデバイスを制御するシステムソフト開発、
アラームや画面表示のためのアプリケーションソフト開発と、
ひとえに「開発」といっても専門分野はさまざま。

部門や担当が違えば
それぞれ文化も異なるので、
どうやって一緒に進めていくか、
チームづくりから悩むことが多かったですね。

田守さんはソフトの開発、赤間さんはハードの開発にこれまで携わってこられていますが、同じAlarmoという商品を開発するにあたって、それぞれの立場で苦労した点はありましたか。

田守

ソフトの開発だけであれば、試作をテストするのもソフトの開発者だけで
済むので、ある意味スピーディなんです。
でも今回のようにハードの開発が絡むと、
ハードをつくって、センサーや内部の機器を制御し、
アプリケーションを動かす・・・と開発の進めかたが複雑になっていきます。

システムソフトがセンサーをうまく制御しないと、
アプリケーション側で出すアラーム音が安定しなかったり、
センサーの反応が悪くなったなと思ったら、
実はシステムソフトが問題ではなく
ハードの設計がほんの少し変わったせいだったり・・・。

赤間

たしかに、センサー周辺の形状をわずかに変更しただけで、
反応が悪くなって悩んだこともありましたね。
てっきりシステムソフトの異常だと思っていたので、
あれはなかなか原因に気づけませんでした。
専門分野が違うと、余計に。

田守

部品を一枚挟んだり、材質や形状をわずかに変えたりするだけでも
反応が変わってしまう。
ハードの変更に応じてシステムソフトや
アプリケーションも修正しないといけないので、
結局すべての工程をお互いにしっかり情報共有して、
並行して動かす必要があったんです。
普段のゲームソフトの開発とまったく違うプロセスを求められたのは、
ソフト開発側として苦労したところでした。

一方で、本体や内部機器の設計から、システムソフト、
アプリケーションの開発まで一貫してチーム内で行ったことで、
問題が起きた場合もすばやく原因の発見や対策ができたのは
良かった点でもありましたね。

連携に苦労するというのは、裏を返せばどの部門も欠けてはいけない存在でもある証だと思います。赤間さんが苦労したのはどんな部分でしたか。

赤間

ハード開発でいえば、やっぱり一から仕様を考えるのがすごく大変でした。
これまでつくってきたゲーム機は、
ハードの形やボタンの数など一定のルールがあったんです。
でも今回はゲーム機ではないですし、
そんなルールはありません。

どういうボタンが必要なのか、それが何個あればいいのか、
基準がない状態から決めるのはなかなか難しかったですね。

苦労した部分がハードとソフトで違うのもそれぞれの文化の違いを感じます。そもそも、違うものを手がけてきた開発者として、お互いの考えていることがよくわからないみたいなことはなかったのでしょうか。

赤間

ずっとそんな状況でしたね(笑)。

田守

もともとの開発文化の違いや担当者の個性の違いが多くて、
かなりすれ違いが起きてました(笑)。
どちらかといえば、私も赤間さんもデザイナーなので
抽象的な言葉を使いがちなんですよ。
でも、かっちりしたものをつくってきた
システムソフトのプログラマーやハードのエンジニアには
あいまいな表現はなかなか通じない。
「反応を良くしてほしい」という相談をしても、
「じゃあ何秒までだったら許容できるのか?」と
細かく具体的な話になるんです。

赤間

「ピョーンってする感じで」というと、
「ピョーンってなんですか?」ってプログラマーに言われたり・・・。

田守

「その表現はわからへんよ、赤間さん・・・」って思いながら、
プログラマーに問い詰められているのをずっと横で見てました(笑)。

私はゲームソフトの開発で同じような経験があったので、
プログラマーには抽象的な話だと伝わらないのは
なんとなくわかっていたんですけど、
赤間さんは慣れていないようだったので、
ちょっと苦労したんじゃないかなと思います。

赤間

途中から自分で寝たり起きたりする写真とか動画を撮って、
編集で音を入れて「この、背伸びした瞬間に音を鳴らしたいんです!」
みたいな説明をしてましたね。

開発文化やコミュニケーションの行き違いから、行き詰まってしまうようなこともあったのでしょうか。

田守

何度もありました。特にコロナ禍で開発が進んでいたこともあって、
コミュニケーションが取りにくかったのも大きかったですね。

一度あまりに行き詰まったときに、
みんなの開発の手を止めて
「1週間、自分たちが好きなものをつくろう」
という期間を設けたこともありました。

目覚まし時計をつくっていましたよね。それを忘れて、ですか?

田守

そうです。目覚まし時計にとらわれず、
うごきセンサーというデバイスの特徴を改めて知るために、
ハードとソフトのメンバーがふたり一組になって、
自由な案を出してもらいました。

動きを検知する機能を活かして、
「だるまさんがころんだ」を再現しました、という案もあったり、
リズムに合わせて体を動かして演奏するような案もあったり、
いろんな提案が出て面白かったですね。

ここまで密接にハードとソフトが一体になって、
ゲーム機やソフトではない商品の開発を行うのは
みんな初めての経験だったので、思い通りにいかず
お互いにギスギスしてしまうこともあったんです。
でもこの経験で、一緒に開発する楽しさを再認識できて、
ぐっと距離が縮まりましたよね。

赤間

結果的にうごきセンサーの反応が良くなったこともあって、
今の商品に近づいていきましたが、
あの期間でいろんな試作を自由につくって
チームメンバーが職種や立場を越えて親しくなったことも
プロジェクトが進み出すきっかけになったのではないかなと思います。