『開発者に訊きました ニンテンドーサウンドクロック Alarmo』

2024.10.9

本文内に掲載の画像、映像は開発中のものを含みます。

任天堂がつくった
不思議な目覚まし時計

任天堂のモノづくりに対する考えやこだわりを、
開発者みずからの言葉でお伝えする
「開発者に訊きました」の第14回として、
10月9日(水)に発売となる
『ニンテンドーサウンドクロック Alarmo』の
開発者の皆さんに話を訊いてみました。

まず、簡単に自己紹介をお願いできますか。

田守

田守です。
企画制作部に所属していまして、
Alarmoでは、プロデューサーとして全体を俯瞰ふかん的に見ました。
過去はゲームソフトのデザイナーとして
Wii Uの『スプラトゥーン』※1やNintendo Switchの『Nintendo Labo』 ※2
携わっていました。

※12015年5月に発売したWii U用ソフト。4人対4人でインクを塗り合い、塗った面積の多いチームが勝利する「スプラトゥーン」シリーズの第一作。

※22018年4月発売。ダンボールとNintendo Switchゲーム機本体、ゲームソフトを組み合わせて、ピアノや釣り、バイクやロボットなどいろいろなコントローラーを自分でつくって遊ぶことができる。

赤間

赤間です。
技術開発部に所属していて、
今回はディレクターという立ち位置で参加しています。
もとはプロダクトデザイナーで、
最近ではNintendo SwitchのJoy-Conグリップや、
Joy-Conハンドルなど
ハードウェアのデザインに携わっていました。

おや、ゲームソフトをつくる開発者とゲーム機や周辺機器などハードをつくる開発者、それぞれ部門の違うおふたりが一緒になってつくったということなんですね。まずは製品の簡単なご紹介をお願いできますか。

赤間

はい。これは『ニンテンドーサウンドクロック Alarmo』といいまして、
ひとことでいうと「任天堂がつくった不思議な目覚まし時計」です。
なにが不思議かというと、
本体内に人の動きを感知する特殊なセンサーを積んでいて、
使う人がベッドにいるかどうかがわかるんです。
そのセンサーを利用することで、
ベッドにいる間は寝坊してしまわないよう何度も起こし続け、
ベッドから出たときには、自動的にアラーム音が
止まるようになっています。

また、アラーム音には任天堂のゲームの音楽や効果音を使っていて、
まるでゲームの世界で目覚めたかのような体験ができるのが特徴です。

田守

ベッドの横に置いておくだけで、気持ち良く起きられたり、
楽しく起きられたり、ベッドに入ると
心地良く眠れるよう自動的に音楽が流れたり・・・
それから、どれくらいの時間ベッドにいたのかや、
アラームが鳴ってからベッドを出るまでどれくらい時間がかかったのかを
見守ってくれるような目覚まし時計になっています。

今、任天堂が主につくるものといえば、ゲーム機やゲームソフトで、この製品はちょっと「変わり種」ですよね? どんな経緯でこの変わり種なプロジェクトは立ち上がることになったのでしょうか。

田守

社内にあったプロジェクトのひとつに、
「うごきセンサー」という技術を研究しているものがありました。
このセンサーなら、カメラを使わないため
プライバシーに配慮することができ、
寝室と非常に相性がいい、という
アイデアがあったのですが、実際に
「このアイデアを活かして何かできないか」と
新たに立ち上がったのが今回のプロジェクトになります。

うごきセンサーというのは、どのようなセンサーなのでしょう。

赤間

一般的には「電波センサー」と呼ばれていて、
すごく簡単にいうと、電波の反射を使って
物との距離や物の速度を測るセンサーです。
自動運転車やドローン、ロボットなどには
衝突を回避するセンサーとして搭載されています。

ポイントはすごく細かい動きも認識できることと、
カメラとは異なり、映像を撮る必要がないので、
カメラよりもプライバシーが守られること。

電波を利用するので、暗い部屋でも使うことができるうえに、
電波さえ透過すれば障害物があっても動きを感知することができます。

田守

布団を被っていても、中にいる人の動きを感知できるうえに、
カメラのように画像や映像を使う必要がない。
だからプライベートな空間である寝室と相性がいいんじゃないか、
という話が以前から社内であったわけです。

なるほど、社内にあったアイデアは活かしながら、開発としてはゼロからスタートしたということですね。ところでうごきセンサーと寝室に親和性があったというお話でしたが、最初から目覚まし時計をつくることが決まっていたんでしょうか。

田守

実は最初はそうでもなくて・・・。
寝ている間をどういうふうに見守ろうか、
というテーマはあったんですけど、
目覚まし時計にフォーカスを当てたのは、
技術的な試行錯誤や、たくさん試作をつくる中で
見つけていった答えだと思います。

もともとあった知識を活かしつつ、最終的に「目覚まし時計にしよう!」と答えを出したきっかけがあったわけですね。

田守

そうですね・・・。
今回のうごきセンサーは、寝ている人の動きを
感知しているんですけど、
眠りから覚める、ちょっと手前ぐらいの体の動きというのがあって。
そのタイミングがわかれば気持ち良く起きられるんじゃないか、
という話があったんです。
ただ、そこをきちんとセンサーで見極めるのが
技術的にけっこう難しくて、ずっと実験を続けていました。

そんな中、プログラマーがセンサーを上手に扱う方法を見つけてくれて、
反応がすごく良くなったタイミングがあったんです。

センサーで測定した距離や角度をもとに、
使う人がベッドのどのあたりにいるかを判定する仕組みを開発してくれて。

これによって、より的確に
ベッドを出た瞬間・入った瞬間を捉えられるようになりました。
そのときに、
「アラームが鳴って、ベッドから人が出たらすぐに自動で止まる」
機能を持った目覚まし時計ができるんじゃないかという話になりました。

赤間

実は「起こしてくれる機能」自体はプロジェクト当初から検討していて、
ベッドを出て十数秒したら止まるとか、体を動かしたら止まるとか、
機能としては便利ではあったんです。
ただ、それがうれしいか、手ごたえがあるかというと、
残念ながらそうではなかった。
このころはゲームのキャラクターが登場するわけでもなくて、
音が止まるまでの時間が画面上のバーだけで表示されていて、
アラームがいつ鳴りやむのか確認するのに画面を見る必要があったり、
ベッドを出ても止まるまで時間がかかったりと課題も多かったんです。

そこから、先ほど話に出たセンサーの反応など、
プログラマーによる技術的な改善をきっかけに、
「体を動かしたら音階が上がるような効果音を出そう」とか
「ベッドを出た瞬間にファンファーレを鳴らそう」とか、
楽しさや手ごたえを感じられるアイデアがどんどん出てきて、
やっと目覚まし時計として新しいモノになりそうな感覚をつかみ始めました。

田守

ハードを一から考えるときって、
ある意味アイデアを支える技術さえ確立できれば
実装する機能には制限がないので、
本当にいろんなことができてしまうんです。
上半身を起こすところを判定して、起きていることを判別しよう
なんてことも試していました。

赤間

そうそう、手を動かしているところを判別しようとか、
寝返りの方向を左右で切り分けて感知できるようにしようとか、
伸びをしたら音が止められるようにしようとか・・・。
とにかくいろいろ試作を繰り返していました。

試行錯誤の中でも、うごきセンサーの開発当初を知るメンバーの
ノウハウはいろいろと役立ちましたね。
たとえば、「手を触れずに止められる」「体の動きに反応する」
といった点は、製品に活かすことになりました。

田守

手を触れないという点にこだわりすぎて
どうにかアラームの時刻や音楽の設定も
手のジェスチャーで操作できないか、とか
ユーザーインターフェースの面でもチャレンジしていた時期があったんですよね。
ジェスチャー操作は、ちょっと操作が面倒で諦めましたが(笑)。

赤間

あれはちょっと・・・(笑)。
でも、本当にいろいろなトライ&エラーを重ねていました。