試行錯誤の末に「不思議な目覚まし時計」をつくることに行き着いたと思いますが、すぐに今回のデザインや仕様が決まったわけではないですよね。どのような変遷があったのでしょうか。
実際にご覧いただくために、今日はいくつか試作をお持ちしました。
まず、これが初期のプロトタイプです。これまた随分と様子が違いますね。
このときはまだ液晶画面ではなくて、
ただ、ソフトの開発者からすると、 説明書がなくてもすんなり使ってもらえることを大事にしていたので、 この表示方法では十分説明しきれないなと。
特にこの商品のうごきセンサーのような新しい機能を 説明するのがすごく難しかったんです。
このプロトタイプを開発していたときに、
先ほどの「好きなものをつくろう」の試作会もありました。※「好きなものをつくろう」会の試作のひとつ。リズムに合わせて体を動かして演奏する。
うごきセンサーの機能をどう活かすか、どのようにお客さまに見せるかなど、
さまざまな部分で悩んでいたころでしたね。このときから赤間さんは
たとえばマリオの1曲目は「M1」とか、 ゼルダの2曲目は「Z2」とかで表示されていたんですよ。
「K」っていうのもあったんですけど・・・なんだと思います?
「K」? うーん・・・何でしょう?
「マリオカート」です(笑)。
ああ・・・。それはなかなか難易度が高いですね。
これはほんの一例で、
液晶はつけるべきなんじゃないかとか、 ボタンは押しやすいように上につけるほうがいいんじゃないかとか、 うごきセンサーという特殊なセンサーを使う意味を 失わないようにしながら、使い心地の良いバランスを探っていきました。
ちなみに、今回はハードのデザインを担当したメンバーが ユーザーインターフェースのデザインも行っています。
どうやってデザインと機能をバランス良く落とし込んでいくか、 ハードとソフトの両面からより良い使い勝手を目指して 試作を繰り返してくれましたね。
そんな試行錯誤を踏まえてできたのがこちらのプロトタイプです。
おお、ぐっと今の形に近づきました。何か台座のようなものに載っていますね。下の台座部分には何が入っているのですか?
実はひとつめのプロトタイプの中身を分解したものが
目覚まし時計の脳みそとなるシステムが土台にあって、 上部には液晶とスピーカー、
天面と横面にダイヤルを組み込んでいます。
ひとつめのプロトタイプから比べると、ボタンがだいぶ減りましたよね。
もともとは電源ボタンや音量ボタンがあったんですけど、
それで横のダイヤルに集約したんですが、 これでさえ面倒になって、最終的な製品版では ひとつのダイヤルとふたつのボタンだけを天面に配置しました。
ふたつめのプロトタイプでは、
左ききの人にとっては右にダイヤルがあるのが使いにくかったり、 台座部分がなくてもバランスが安定するようにしたかったりもあって、 最終的に操作する部分はすべて上部におさめてもらいました。横にダイヤルやボタンがあると、
触ったときに本体の向きが変わってしまうんじゃないかという 心配もありましたね。うごきセンサーで正しく動きを検知するために、 できる限り触ったときに位置が変わらないような設計を目指しました。操作感だけではなく、置かれたときのシチュエーションも想定しながら設計していったということですね。最終的にこのようなデザインになったのは何が決め手だったのでしょう。
デザインを決めるうえでやっぱり一番難しかったのは、
いろいろ悩みはあったのですが、 まったく新しい体験ができる新規性が高い商品ではあるものの、 まずは目覚まし時計であることをしっかり伝えるのが大事だと思い、 ぱっと見て目覚まし時計だと認識できるデザインにしました。
あと、田守さんからAlarmoを絵やアイコンとして描いたときに 誰が見てもわかる印象的な形で、というリクエストもあって 最終的にこの形に決まりましたね。
そういえば肝心のうごきセンサーらしいものが見当たりませんね。どこについているのでしょうか。
実は液晶の上についていて、センサーが見えないようにしています。
センサーを気にせずに使っていただくことを開発当初から 目指していたので、極力センサーは目立たないように工夫しました。センサーの位置がわからないぶん、
液晶画面に関しても、四角形という制約があったので、 ハードの丸い形に違和感なくなじむようにハードのデザイナーとも 相談しながら画面表示のデザインや仕様を決めていきました。
眠りを妨げないように画面の明るさはかなりこだわって調整しましたね。
画面を見ようと体を動かした瞬間に、うごきセンサーを使って 画面を明るくする処理を入れているので、普通に時計の機能として 便利だという声も開発者の中でありました。
デザインの面でいえば、目覚まし時計として珍しい色も印象的ですね。赤色1種類に絞った理由は何だったのでしょう。
もともとは何種類か本体色を用意していて、
目覚まし時計とわかるようなデザインにしましたが、 そうはいっても普通の目覚まし時計には見えてほしくない。
特殊な体験ができる「不思議な目覚まし時計」であることを 一目でわかってもらえるように、 候補の色の中で最も印象的で、 寝室に置いたときにワクワクしてもらえるような 赤色に思い切って決めました。
電源をつなぐ必要があるのも従来の目覚まし時計とは少し異なります。なぜ電池式や充電式ではなく、電源をつなぐ仕様にしたのでしょうか。
大きな理由のひとつは、うごきセンサーを使って
頻繁に充電したり電池を交換したりする目覚まし時計なんて 使えたものじゃないだろうし、万が一朝起きて電池が切れていたなんてことが あると大惨事ですから(笑)。
もうひとつ決め手になったのは、 一度置いたら触らなくても使い続けられる 目覚まし時計にしたいということ。
使い始めは設定で少し触ってもらうことがあるかもしれませんが、 だんだんと触る頻度が減ってくるはず。
そうなると、電源をつなげた状態で 置いておくだけで使ってもらえるようになる。
たとえ年に一回であっても 電池を変えてお世話をしないといけないよりも、 一切メンテナンスが必要ない目覚まし時計であってほしい という判断から、電源をつなぐ仕様にすることに決まりました。
なるほど、そんなところにもいろいろな思いがあるんですね。ところで、うごきセンサーはまったく新しいものというわけではなく、すでに世の中では「電波センサー」として、ほかの用途で使われているものですよね。今回はそれを目覚まし時計を操作する機能として使い、「起きることが楽しくなる」ような新しい体験をつくりだしています。既存のものを独自の目線で別の用途に使って新しいものを生み出すプロセスは、元任天堂の開発者、横井軍平さんの「枯れた技術の水平思考」※4の思想にも通じるように思いました。
※4電子玩具や「ゲーム&ウオッチ」、「ゲームボーイ」の開発を手がけた元任天堂開発第一部部長の横井軍平が提唱した開発思想。最先端ではないが世の中で広く使われている技術を新しい別の用途で使うことで、新たなヒット商品が生み出せるのではないかという考えかた。その後の任天堂のものづくりに影響を与えた。
「電波センサー」は、
当時日進月歩の技術ではあったので そこまで意識したわけではありませんが、 結果的にうごきセンサーとして使うことで そういう思想につながった部分はあるかもしれません。ハードに関しては、
光って、回せて、押せる機能があるダイヤルって 世の中になかなかないんです。
条件に合うダイヤルを探し求めた結果、 チームで一から設計することになりました。
開発は簡単ではありませんでしたが、 ハードとソフトのエンジニアたちが これまでのゲーム機の開発経験を活かしながら、 回し心地や押し心地の気持ち良さ、 光りかたのバランスを追求するために、 何度も何度も試作を行ってくれました。
トライ&エラーを重ねたことで、 ダイヤルひとつとっても普通の目覚まし時計ではない、 新しい目覚まし時計になったと思います。
ゲームの開発環境や開発ツールをつくってきたメンバーが
このツールのおかげで、たくさんのアラーム音を 効率的につくれるようになりました。
ゲーム開発で培ったノウハウを 目覚まし時計というまったく異なるものに活かせたと思います。
Alarmoの機能や仕組み、目覚まし時計としての新しさは、さまざまなメンバーのこれまでの知識や経験が集まってできたのですね。
そういえば、新しいという観点でいえばAlarmoには、
任天堂のハードウェアとしては 最大級サイズのスピーカーが搭載されています。このスピーカーに関しても、たくさん試行錯誤しました。
大きなスピーカーを使いつつも、 どこにでも置きやすいように できるだけ本体はコンパクトに設計したり、 少しでも音に包まれた感覚が生まれるよう、 スピーカーをあえて後ろ向きにしたり・・・。
サウンドにかかわるハードとソフトのエンジニアの力を借りながら、 さまざまな工夫を詰め込みました。
結果的に任天堂のハードとしても新しいものになったかなと思います。