『開発者に訊きました ニンテンドーサウンドクロック Alarmo』

2024.10.9

本文内に掲載の画像、映像は開発中のものを含みます。

新しい目覚めの当たり前をつくる

デザインや技術も印象的ですが、Alarmoの特徴を語るうえで、アラーム音やBGMは外せない要素だと思います。発売開始時には『スーパーマリオ オデッセイ』、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』、『ピクミン4』、『リングフィット アドベンチャー』、『スプラトゥーン3』から、それぞれ7種類のアラーム音が入っているということですが、ゲーム音楽を鳴らそうと考えたのはなぜでしょうか。

赤間

プロジェクトが始まったころ、
「どんな目覚めかたをしたい?」をテーマに打ち合わせをしたことがあって、
そこで「起きたら○○だった」というネタで盛り上がったことが
きっかけのひとつでした。
「起きたらハワイの浜辺だった」とか
「起きたら赤ちゃんになってた」みたいな案を出すうちに、
「毎朝旅をするみたいにいろいろな場所で起きられたらいいね」という
話になって。だったらゲームの世界で目覚められたらいいよね、
と話がまとまって、ゲーム音楽を使うことになりました。

まるで海辺で目覚めたり、草原で目覚めたりと、アラーム音を変えるだけで
旅するように目覚めのシーンが変化するのは、ゲームの世界や空間を
サウンドで表現している任天堂の音楽ならではのパワーかなと思います。

たしかに、ゲームのさまざまなシーンの音楽がアラーム音になっていますね。

赤間

同じアラーム音に慣れてしまうと、どれだけうるさく鳴らしても
起きられなくなってしまうこともあって、
なるべく曲は多いほうがいいだろうな、と。
その観点から、アラームで鳴るゲーム音楽は
自分で設定することも
ランダムに設定することもできるようにしました。
曲のバラエティがあるほど毎日違った起床体験ができるので
目覚めやすく、そして起きるのが楽しみになるんじゃないかなと思います。

あと、アラーム音が止まって、その後しばらくBGMが再生されるんですけど、
ちゃんとゲームの世界にいる雰囲気を出すために、
体を動かすとそれに合わせて音で反応するようになっています。

寝返りをうったり、体を動かしたりすることでだんだん目が覚めていくので、
いろいろ体を動かしながら
ゲームの世界で気持ち良く起きるような体験をしてもらえたらうれしいですね。

そういえば静かに起きたい人もいれば、しっかり起こしてほしい人もいますよね。そこはどう対応されているのでしょうか。

田守

起こしかたにモードがあって
「しっかり起こすモード」と「やさしく起こすモード」、
「ボタンで止めるモード」の3種類を用意しています。

実は開発当初は「しっかり起こすモード」だけだったのですが、
やっぱり起きかたって人によってバラバラで。
私自身はアラームが鳴ったらサッとベッドから出られるんですが、
ベッドの上で30分くらいぼーっとしてから起きる方もいることを
このプロジェクトが立ち上がってから初めて知りました。

そういう方からすると、「しっかり起こすモード」は刺激が強すぎるという
意見もあったので、サウンドのレベルを下げて、少し動くだけで止まる
「やさしく起こすモード」も追加しました。
まずは「しっかり起こすモード」を試していただいて、すこしうるさいなと
思ったら「やさしく起こすモード」に切り替えていただくのがおすすめですね。
さらに、インターネットに接続することで、
「しっかり」と「やさしく」の間くらいの
「ほどよく起こすモード」も追加することができるので、
お好みのモードを選んでいただければと思います。

もうひとつの「ボタンで止めるモード」は普通の目覚まし時計のようなモードですよね。

田守

うごきセンサーはAlarmoをひとりでお使いいただいたときに
最も反応が安定していて、機能も最大限に発揮できるようにつくっていますが、
ご家族で一緒に寝ているお客さまも多くいらっしゃると思います。

センサーの性質上、ひとりがベッドを出てもほかに寝ている人がいると、
ベッドにまだ人がいることを検知して、アラームが鳴り続けることがあります。
もちろん全員がベッドから出れば止まりますけどね。
ただ、ご家庭によって起きるときの状況はまったく違うはずで
さまざまなシーンに対応できるよう、ダイヤルをポンッと押したら
音が止まるモードも備えるようにしました。

赤間

Alarmoを実際に体験し、製品の精度を上げるため
開発チームではモニタリングテストを実施しています。
私や田守さんを始め、開発チームの半分くらいは家族がいる環境で
使用していますが、使いづらいといった声はあんまり聞かなかったと思います。

あと、ご家族でお使いいただいている方から
気に入ってもらえているのは、時報の機能です。
学校や会社に行くための合図になっていたり、
毎日のルーティンのお知らせになっていたりと、
暮らしのリズムをつくってくれる機能として活躍しています。
もちろん、ON/OFFも変更することができます。

設定しているゲームタイトルによって時報の音と画面上の演出も変わるので、
さまざまなバリエーションで
楽しんでいただけるようになっていますよ。

曲の選びかたや起こしかた、時報など、サウンドには相当こだわって開発されたようですね。

赤間

そうですね。
Alarmoのアラーム制作は、実はサウンドの専門家ではなく、
うごきセンサーを研究していたプロジェクトの頃からいるメンバーが、
その時に得た目覚めに関するさまざまな知識を
もとに行ってきたんです。

なので、ただゲーム音楽や効果音を使うだけでなく、
どうやったら気持ち良く目覚められるか、
どうやったら目覚めやすいかといったことを考えながら制作してくれました。

そのうえで、もちろん最終的にはサウンドの専門家の方に
監修や調整をしていただきました。

田守

ほかにも特にアラームの音量の調整はとても苦労しました。
普段ゲームを開発するときは、目覚めている状態の人に向けてつくりますが、
今回は寝ている人に向けてつくる必要がある。
ゲームをつくるときとは真逆で、実際に寝て確かめないと
正しい音量なのかどうかがわからないんです。

日中にアラームを聴くと音量が小さいなと思っても、
起きたときに聴くとちょうど良かったりする。
でも、それを実際に確かめるためには、
寝て起きたときにどう感じるかで判断するしかないんです。
ということで、ひとつ音量を調整しただけでも
検証に1日かかるのはなかなか大変でしたね。

ゲーム音楽を使うことは初期のプロトタイプ開発時から決まっていたという話でしたが、任天堂の製品となるとゲーム的な要素があるのではないかと期待されると思います。Alarmoにはゲーム的な要素は入っていないようですが、それは大きな決断だったのではないでしょうか。

赤間

そのような機能を取り入れるか検討していた時期もありましたけど、
かなり初期の段階で「やめましょう宣言」が出ましたね。

田守

ゲーム的な要素を入れると、布団の中で遊び続けてしまうことも
考えられます。そうなると、むしろ睡眠を邪魔してしまうかもしれません。
気持ち良く目覚めてもらうために、そのような状況はつくりたくないので、
遊べる要素は早々になくすことに決めました。

赤間

長く使い続けてほしい思いは常にあったので、
それを考えるとゲーム的な要素と、
Alarmoとの相性があまり良くないのも懸念点でした。

例えば、起きるごとにプレゼントがもらえる
仕組みをつくったとして、
プレゼントがもらえるうちは、
起きるモチベーションになるかもしれません。
でも、その仕組みでは、プレゼントがなくなったら
起きるモチベーションがなくなってしまう。
それどころか、その仕組みに一度慣れてしまうと、
「プレゼントがもらえないなら起きなくていいや」なんて
ことが起きてしまうかもしれない。

長く使い続けてもらうためには、
むしろゲーム的な要素はなくしたほうがいいんじゃないか
という結論に達しました。

あと、「やらなきゃいけないことは増やさない」なんて話もしていましたね。

田守

お客さまの行動を縛るような、
押しつけがましいような要素はあまり入れないでおこう、と。

アラームを設定した時間よりも起きるのが早かったら金メダル、
遅かったら銅メダルみたいな仕組みも入れようと思えば入れられるんです。
でも、そうなると早く起きられたら偉い、だから早く起きましょうという
考えを押し付けてしまうことにもなる。
それはそれでひとつの正解かもしれませんが、
Alarmoに関しては、
そっと寄り添って、見守ってくれる存在であってほしい。

早く起きても、遅く起きても、今日の睡眠時間はこんな感じでしたという
ことを淡々と記録して教えてくれる機能がある、くらいの立ち位置で
長く使ってもらえるのがいいなと思っています。

ゲームのような機能はないということですが、画面の中では任天堂のキャラクターたちが動き回っていますね。キャラクターを使うことになったのは、ゲーム性をなくす判断をしたあとに決まったのですか。

田守

うごきセンサーがAlarmo内部で働いていることを
知ってもらいたい、というのは常々考えていました。
もともとは動画ただの丸の絵がふよふよと動いていて、
自分が右に動いたら丸がぴよーんと右に伸びたり、
自分が左に動いたら左に伸びたり、
ベッドから出たらどこかにぴょんと飛んでいくみたいな
仕組みをつくっていたんです。
インタラクティブな体験としては悪くなかったのですが、
時計の表示とまったく雰囲気が合わないなと。

ゲーム機ではないとはいえ、やっぱり任天堂からハードを出すとなると
キャラクター的な要素は期待されるはず。
うごきセンサーを使ったインタラクティブな体験も良くなりそうだし、
画面もキャラクターが表現できる液晶になった。
ここまできたら、しっかりとキャラクターを使う方向に
かじを切るべきなんじゃないか、という話になったんです。

「スーパーマリオ」や「ゼルダの伝説」などに登場する
任天堂のキャラクターはそれぞれ特徴があるので、
アラーム音を切り替えると同時に、表示画面として
キャラクターを選べることも
Alarmoの価値につながるんじゃないかと話が進み、
最終的にこのようなかたちになりました。

キャラクターが毎日の目覚めを見守ってくれるのがわかると、よりゲームの世界の中で目覚めるような起床体験になりそうですね。では最後になりますが、おふたりはAlarmoをお客さまにどのようにお使いいただきたいか、訊かせてください。

赤間

やっぱり一番は「新しい目覚めの当たり前」になってほしいですね。
朝起きたらしばらく流れるゲームの世界を楽しんで、
ベッドから出るだけで自動的にファンファーレがなってアラームが止まる。
そして、アラームの曲を変えて、
その日の目覚めの気分を変えられることが、
今後目覚めのグローバルスタンダードのように
なったらいいなと思っています。

タッチパネルや自動ドアが今の世代にとって普通なものであるように、
生まれたときからAlarmoがあって、
目覚まし時計はベッドを出たら勝手にアラームが止まるもの、
ベッドの中で体を動かせば音が鳴るもの、と思ってくれる世代が出てくると
うれしいですね。

田守さんはいかがでしょうか。

田守

使い始めは自分の好きなソフトの楽曲で目覚めようと
アラーム音を選ぶことが多いと思います。
でも、どれも任天堂のソフトの音楽を使ってしっかりつくりこんだ
アラームになっているので、ぜひ使い慣れてきたらランダム設定にして
毎日変化がある起床体験を楽しんでもらいたいなと思います。

普段はまったく触らずにお使いいただいて、たまに気づいたときに
これまでの睡眠時間のログや、アップデートを確認していただく。
お世話をせずとも、そっと日々の暮らしに寄り添って、
見守ってくれる存在になってもらいたい。
赤間さんと同じように、日常にある当たり前になってくれると
すごくうれしいなと思います。

こだわりが詰まった「不思議な目覚まし時計」が明日どんな目覚めの体験をさせてくれるのか、ベッドに入るのが楽しみです。ありがとうございました。