「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」発売記念インタビュー 第4回「ゼルダの伝説篇」

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みなさん、ファミコンニチハ! 京都在住ライターの左尾昭典です。
「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」の発売を記念してお届けするゲーム開発者インタビューも、ついに第4回目。
今回のテーマは、発売30周年を迎えた『ゼルダの伝説』です。

ファミコン ディスクシステムの同時発売のタイトルとして登場した『ゼルダの伝説』。Wii UとNintendo Switchで発売予定の最新作、『ブレス オブ ザ ワイルド』に注目が集まるなか、シリーズの原点はどのように生まれたのか、前回の「スーパーマリオ篇」と同じく、宮本さん、手塚さん、近藤さんの3人から話を聞くことにしました。

なお、クリア後に遊べる「裏ゼルダ」誕生の経緯については、社長が訊く『ゼルダの伝説 大地の汽笛』の中の番外編で、詳しく語られていますので、興味のある方はぜひお読みくださいね。

それでは、宮本さん、手塚さん、近藤さん、よろしくお願いいたします。

第4回

ゼルダの伝説篇

「剣と魔法の世界」をテーマに

『ゼルダの伝説』30周年、おめでとうございます。

一同

ありがとうございます。

宮本

なんか毎年、言われてるような・・・(苦笑)。

去年は『スーパーマリオ』30周年でしたしね(笑)。さっそくですが、30年前にディスクシステム(※1)で出た『ゼルダの伝説』を、どうしてつくろうと思ったんですか?

※1 ディスクシステム=ファミリーコンピュータ ディスクシステム。1986年2月に発売された、ファミコンの周辺機器。ディスクメディアを採用することにより、ROMカセットよりもメモリー容量が増え、ゲームデータのセーブが可能になった。

宮本

あの当時、映画の『インディ・ジョーンズ』(※2)があったことも関係なくはないんですけども・・・。

※2 『インディ・ジョーンズ』=ジョージ・ルーカスとスティーブン・スピルバーグが制作した、アドベンチャー映画のシリーズ。1作目の『レイダース/失われたアーク』は1981年公開。

1980年代は、アドベンチャー映画が流行っていましたからね。

宮本

それで、あのような冒険ものを、ゲームでもつくってみよう、という想いがあったんだと思います。それにあの当時は、パソコンでRPGを遊んでいる人たちが、「オレの剣士はこれだけ強くなった」と、すごく自慢げにしゃべっていたり、情報交換をするために、夜中に電話をかけたりしていたんです。そういう人たちを見て、おもしろそうな世界だなあと思ったんですね。

そこまで夢中になるんだったら、自分でつくろうと?

宮本

そうですね。そこで、「剣と魔法の世界」をテーマに、宝探しを基本にした冒険のゲームをつくることにしたのが、『ゼルダの伝説』のはじまりです。

『ゼルダ』の発売は、『スーパーマリオ』(※3)の5か月後でしたが、開発は『ゼルダ』のほうが先だったという話ですよね。

※3 『スーパーマリオ』=『スーパーマリオブラザーズ』。1985年9月に、ファミコン用ソフトとして発売されたアクションゲーム。

宮本

そうです。まず『ゼルダ』をつくりはじめて、それから『スーパーマリオ』にとりかかりました。『ゼルダ』はディスクシステム専用ソフトでしたので、『スーパーマリオ』のほうを先に仕上げることにしたんです。(手塚さんに)だったよね?

手塚

ええ。じつは『ゼルダ』と『スーパーマリオ』を並行してつくっていたことが、よくわかる資料がありまして、近藤が持ってきた発注書なんですけど・・・。

近藤

『ゼルダ』のサウンドを依頼されたときの発注書なんです。そこには手塚の名前入りのハンコが押されてあって、日付が9月27日になっているんです。

『スーパーマリオ』の発売日が9月13日ですから、ちょうど2週間後に書かれた発注書なんですね。(発注書を見て)簡単な絵コンテも描いてありますし、この時点で開発がかなり進んでいたことがわかりますね。

宮本

そうですね。たしかにちゃんとした発注書になっていますし。

手塚

けど、よく読むといい加減なんです。

いい加減なんですか?(笑)

手塚

洞窟の中の音楽は「短いBGM」とかしか書いてないですし・・・。

「命の泉」・・・これはきっと妖精の泉なんですよね。

手塚

そうです。

そこには「ファンファーレ、キラキラ」としか書いてませんし(笑)、頼まれた近藤さんは、「どんな曲をつくればいいの?」という感じになりますよね。

近藤

ええ(笑)。

手塚

(発注書を見ながらしみじみと)けど、おもしろいな・・・こんなんで、サウンドがつくれるのか・・・。

「こんなんで、つくれるのか」って、手塚さんが自分で書いたんでしょう!(笑)

一同

(笑)

徹夜してつくったオープニング曲

手塚さんから発注書を受け取って、近藤さんの曲づくりは順調に進んだのですか?

近藤

『スーパーマリオ』とは世界観が違いますし、まったく異なる曲が求められるということで、けっこう悩みました。それに『ゼルダ』は、最初にオープニングロールが出ますけど、そこにどんな曲をつければいいのかと・・・。手塚が書いたこの発注書には「タイトルミュージック」としか書かれていませんでしたし(笑)。

手塚

(笑)

近藤

最初はずっと、ラヴェルの「ボレロ」を流していたんです。というのも、オープニングロールにすごく合っていたので。

既存の、ボレロの曲を使っていたんですか?

近藤

そうです。クラシックの曲です。

それを、そのまま流していたんですか?

宮本

ファミコンにアレンジして鳴らしていたんですよね。

近藤

そうです。ところが『ゼルダ』が完成する直前になって、その曲の著作権が切れていないことがわかりまして・・・。

手塚

そうそう(笑)。

宮本

ああ・・・思い出した(笑)。あのとき“著作権が切れてない事件”が起こったんですよ。

“著作権が切れてない事件”、ですか?(笑)

宮本

そもそも著作権って、(国内では)作者の死後50年で切れるのが原則になっているんですよね。

はい。

宮本

で、オープニングで流していたボレロは、ずいぶん昔の人がつくった曲だったので、大丈夫だとは思っていたんですけど、念のために調べてもらったんです。すると、「死後49年と11か月くらいたっているので、来月にはその著作権は切れます」と言うんです。「それはマズイんやない? 来月まで待てないし」って(笑)。

本当に完成直前だったんですね(笑)。

宮本

ディスクシステムの発売を遅らせるわけにもいきませんし。

近藤

そこで、僕がオープニングの曲をつくったんです、徹夜で。

徹夜までしてオープニング曲をつくるほど、切羽詰まっていたんですね。

近藤

はい。まあ、ゲーム中に使っている曲のアレンジなんですけどね。

宮本

オープニング曲らしくアレンジしたんですね。

それでも一晩でつくるなんてすごいですよね。

近藤

なので必死でしたよ。本当にギリギリでしたから。

宮本

『ゼルダ』が完成する直前でしたからね。そんなことがあったからなのか、僕はオープニング曲が大好きなんです。どこか、マカロニ・ウエスタンの曲に近い感じがして・・・。

たしかにそうですね。冒頭では哀愁がただような雰囲気もありますし。

宮本

そのような曲調のエッセンスが、オープニング曲に凝縮されていますし、何より勇ましい感じがしますからね。だから、これから冒険をはじめようとするときに流れる曲としてはピッタリだと思っているんです。

ですから、近藤さんが徹夜をしてまでオープニング曲をつくったことは、すごく意味があったということなんですね。

近藤

そうですね(笑)。

「くわしいことは本をみて下さい」

ところで、オープニングロールを見ていると、宝物などのアイテムがスクロールされて、最後にリンクが「くわしいことは本をみて下さい」というメッセージを掲げますよね。

宮本

はい。

「クラシックミニ」で、初めて『ゼルダの伝説』をプレイする人にとっては「どういうこと?」と、疑問に感じる方もいらっしゃると思いますので、説明していただけますか?

宮本

あのメッセージを出すことにしたのは、取扱説明書というか、ミニブックを付けたからなんです。ディスクシステムのゲームは、お店のディスクライター(※4)で書き換える人もいますし、そのときに買ったという「証(あかし)」がやっぱり欲しいですよね。

※4 ディスクライター=ゲームショップなどの店頭に置かれていた、ゲームデータ書き換え装置。ディスクカードがあれば、通常は1タイトル500円で希望のゲームに書き換えることができた。

ゲームのデータを書き換えるだけでなく、何か形があるものがもらえると、やっぱりうれしいですからね。

宮本

そこで、ミニブックをつくることにしまして、そこには操作方法のほか、ヒントになるストーリーとか、謎解きの攻略法なども載せるようにしました。そのミニブックをぜひ読んでほしいということで、「くわしいことは本をみて下さい」というメッセージを出すようにしたんですね。

そのミニブックは、けっこう凝ったつくりになっていますよね。

宮本

そうですね。壮大な世界観を補強する、という役割が、そのミニブックにはあったんです。当時は、パッケージのイラストやアーケードゲームの筐体をデザインすることで世界観を補強していたんですけど、ディスクシステムでは、ミニブックで補強しようということだったんです。

なるほど。

宮本

それに、『ゼルダ』のようなアドベンチャーゲームを、初めて遊ぶ人が多かったと思うんです。なので、遊びかたの指南書のような役割も、そのミニブックにはあったんですね。

ちなみに、今回の「クラシックミニ」では、当時のミニブックがそのまま読めるんですよね。

宮本

はい。ゲーム画面にQRコードが表示されますので、それを読み取れば、スマートフォンなどで読めるようになります。それは『ゼルダ』だけでなく、『スーパーマリオ』などのオリジナルの取扱説明書も読めるようにもなっているんです。

「ミンナニ ナイショダヨ」

海外ではディスクシステムが発売されませんでしたので、『ゼルダ』はカセットで出ることになりましたが、このミニブックはどうしたんですか?

宮本

北米版ではマップを付けました。で、そのマップのなかにはいろいろヒントが書いてあったんですけど、本音を言うと「何も見ないほうが楽しめるのになあ」という思いがあったんです。

謎解きをする前から答えを知ってるとつまんないですからね。

宮本

そこで、マップにシールで封をして、そこに「これは最後の手段だぞ」といったメッセージを書いたんです。

それ、すごくいいですね。

宮本

けど、みんな、封を切るんですよね(笑)。

「最後の手段だぞ」というメッセージもいいですけど、ゲーム中に出てくる「ミンナニ ナイショダヨ」もすごくいいですね。あれは誰が考えたんですか?

宮本

コピーライターに目覚めた僕が書きました(笑)。少ない文字数でどう表現したらいいかを考えて書いたんですけど、オレって、コピーが書けるんやないかって。

一同

(笑)

子ども心がくすぐられるようなメッセージですよね。敵であるはずのモリブリンが、大量のルピーをくれて、そのときに「ミンナニ ナイショダヨ」と言われるので・・・。

宮本

あのセリフにはマルチな意味があって、ここでルピーがもらえることは、友だちや家族には「ナイショダヨ」という意味があるんです。それともうひとつ、モリブリンは敵ですけど、その敵が恵んでくれたというのは、寝返ったことになるので、彼の仲間には「ナイショダヨ」という意味ももたせているんですね。

なるほど。ちなみに、ルピーというのは、インド通貨のルピーが由来なんですか?

宮本

インドのことはあまり考えないで命名しました。そもそもルピーって、音がかわいいでしょ?

かわいいです(笑)。

宮本

ルピーと言うと、きっとインドだと言われるかもわからないけど、ルビーみたいな感じもありましたし。

ああ、なるほど。ルビーがなまってルピーに・・・。

宮本

だから、インドの通貨というよりは、ルビーのような宝石のイメージなんですね。

『THE HYRULE FANTASY』

ところで、日本版のパッケージやロゴには、『THE HYRULE FANTASY(ザ ハイラル ファンタジー)』というサブタイトルが入っていますけど、それを入れたのはどうしてなんですか?

宮本

剣と魔法の世界ですし、ハイラルという壮大な世界を冒険するゲームということで、『THE HYRULE FANTASY』とつけたんです。で、ハイラルというのは、いろんなネーミングのアイデア出しをしたときに、これは敵に向いてるとか、割り振りをしていくなかで、ハイラルは地域の名前にピッタリだということで、選んだんです。それで『THE HYRULE FANTASY』にしたと・・・(手塚さんに)そうだったよね?

手塚

はい。それに、『ゼルダ』がシリーズとして、これからも続けられるといいな、という思いも込めて、シリーズを『THE HYRULE FANTASY』と呼ぼうということだったんです。

でも、それがなぜ、初代の『ゼルダ』だけしか使われなかったんですか?

宮本

なんででしょう・・・。

手塚

忘れちゃいました(笑)。

宮本

『リンクの冒険』(※5)には『THE HYRULE FANTASY』って入っていませんでしたっけ?

※5 『リンクの冒険』=1987年1月に、ディスクシステム用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャー。

入っていないんです。

宮本

なんででしょうね・・・。そのあとのスーパーファミコン版のときは、『神々のトライフォース』(※6)というサブタイトルをつけたので、それに『THE HYRULE FANTASY』をつけると、長すぎるという理由があったのかもしれませんね。

※6 『神々のトライフォース』=『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』。1991年11月に、スーパーファミコン用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム。

それに『ファイナルファンタジー』(※7)が出てきて、使いづらくなった、ということもあったんじゃないですか?

※7 『ファイナルファンタジー』=1987年12月にファミコン用ソフトとして、スクウェア(現スクウェア・エニックス)から発売されたロールプレイングゲーム。

宮本

ああ、なるほど! 『ファイナルファンタジー』に似ていると。たしかにそういう理由もあったかもわからないですね。うちのほうがパチモンみたいに見られるかもしれんし(笑)。

一同

(笑)

けど、『THE HYRULE FANTASY』のほうが先だったんですよね。

宮本

そう、『ゼルダ』のほうがずっと先に出てるんです。それに、海外では『THE HYRULE FANTASY』をつけずに出しましたし、『ゼルダの伝説』だけでもいいだろうということになったんでしょうね。

「コンペ」「基本」、そして「魔法の箱」

それでは最後に、ファミコンについてもお聞きしようと思います。宮本さんにとって、ファミコンとは何だったのでしょう?

宮本

ファミコンとは、「コンペ」なんです。

いろんな人が作品を競い合うという意味でのコンペ、ですか?

宮本

そうです。僕は学生の頃からデザインの世界にいるので、すごく感じるんですけど、コンペというのは、条件を決められたなかで、いかにパフォーマンスを発揮するか、ということがとても重要なんですね。その意味でファミコンは、コンペのハードなんです。

同じ条件で、しかも制約があるなかで、いかにおもしろいゲームをつくるか、が求められるんですね。

宮本

だから、アイデアを考えるという意味では、コンペの極限のような存在だと思います

ファミコンはメモリーが少なくて、制約も大きかったわけですからね。

宮本

それにもうひとつ、ゲームセンターで100円を払わないと遊べなかったゲームが、ファミコンでは家の中でのびのびと遊べるようになったと。で、僕はどうしても、『ベースボール』(※8)をつくりたかったんです。たとえばゲームセンターで野球のゲームを遊ぼうとすると、1イニング進むごとに100円を入れないといけないわけでしょう。

※8 『ベースボール』=1983年12月に、ファミコン用ソフトとして発売されたスポーツゲーム(本製品「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」には収録されていません)。

はい(笑)。

宮本

けど、ファミコンだったら9回までフルに遊べるわけです。しかも時間無制限で。そういうのもあって、『マリオブラザーズ』(※9)と『ベースボール』を遊ぶために、コントローラを2つ付けたんです。

※9 『マリオブラザーズ』=1983年9月に、ファミコン用ソフトとして発売されたアクションゲーム。同年にアーケード版も登場している。

なるほど。ところで宮本さんは『ベースボール』の開発には、どんな立場で関わっていたんですか?

宮本

ディレクターじゃないんですけど、いまで言うゲームデザイナーでした。野球選手のポーズを全部描いたり、どういう動きをさせれば野球らしくなるか、とか・・・。

じゃあ、けっこう深く関わっていたんですね。

宮本

そうなんです。僕、野球が大好きでしたから(笑)。

(笑)。近藤さんにとって、ファミコンとはどんな存在ですか?

近藤

僕にとっては「基本」のような存在です。というのも、これまでずっとゲーム音楽の仕事を続けてこられたのは、ファミコンのおかげだと思っているんです。

近藤さんにとって、サウンドの原点でもあるわけですね。

近藤

そうです。ファミコンの時代に、ゲーム音楽のつくりかたや、効果音の大切さを学ぶことができ、その後のハードの進化とともに、音がきれいになったり、使える音数は増えていきましたけど、ゲーム音楽をつくるときの勘どころというか、大事な要素はまったく変わっていないんですね。その意味でも、ファミコンがあったからこそ、いまもいろんな曲づくりができているのかなと思います。

手塚さんはいかがですか?

手塚

ファミコンは「魔法の箱」だと思っています。同じ機械なのに、カセットを入れ替えるだけで違う遊びができる、というところが・・・。

まさに魔法の箱ですね。

手塚

ソフト次第でいろんなことを体験してもらえますしね。

それが今回の「クラシックミニ」には、30本のゲームが入っていますので、まさにいろんな経験ができますよね。

手塚

しかも、こんなにちっちゃいのに・・・「クラシックミニ」もまた、魔法の箱なんですよね。

宮本

それに、おもちゃのような魅力もありますしね。

手塚

そうですね。どこのお家にも置いてあるおもちゃってありますよね。何かの機会に取り出して遊ぶような・・・たとえばトランプとかオセロとか・・・。

宮本

将棋盤とかカルタとか・・・。

近藤

もちろん花札も!

宮本

そうそう(笑)。

手塚

そういった、どこのお家にも置いてある常備薬のような、いわば“常備玩具”の仲間のひとつに、「クラシックミニ」も加えていただけると、すごくうれしいですよね。

(第5回は『メトロイド』です。お楽しみに)

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