「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」発売記念インタビュー 第３回「スーパーマリオブラザーズ篇」

そこで今回は、初代『スーパーマリオ』だけでなく、その３年後に発売された『スーパーマリオ３』についても話を聞くことになりました。しかも、「ドンキーコング篇」で登場した宮本茂さんはもちろん、デザイナーの手塚卓志さんとサウンドの近藤浩治さんも登場。『スーパーマリオ３』では開発に苦労したという話も聞けますので、最後までおつきあいください。

それでは、宮本さん、手塚さん、近藤さん、よろしくお願いいたします。

出てました。僕らが入社する前年（１９８３年）にファミコンが発売されたんです。

持ってません（キッパリ）。

任天堂に入ってから買いましたけど。

僕も持っていなかったです。僕、アーケードゲームはよく遊んでいたんですけど、入社したときに流行っていたのが『ドンキーコング３』^（※1）だったので、それを一生懸命に遊んでいました。

アーケードゲームが家庭で遊べるのがいいなと思いました。

僕は、ファミリーコンピュータの知識がまったくなくって、本当にコンピュータだと思ってたんです（笑）。

そうですね。それくらい何の知識もなかった自分が、まさかファミコンのゲーム開発にたずさわることになるとは思ってもいませんでした。

自分としては、「ファミコンカセットの集大成」をつくりたいと思っていました。

そうです。デザイナーの仕事は僕ひとりでやっていましたので、手塚が入ってきてすごく助かりました。それでまず一緒につくったのが『デビルワールド』^（※2）だったんです。

そうなんです。

そのあと、今回の「クラシックミニ」にも収録されている『エキサイトバイク』^（※3）をつくって、そのときも手塚にちょっと手伝ってもらったりしました。

そうです。いろんな技術をパズルのように、ファミコンのカセットのなかに詰め込もうと。そこで、大きなキャラクターを動かして、スクロールする長いコースをつくることになったんです。

だからこそ、『スーパーマリオ』を「ファミコンカセットの集大成」にしようということなんですね。ファミコン発売から時間がたち、ゲームづくりのためのいろんなノウハウがたまっていましたので、それが実現可能なタイミングでもあったんだと思います。

僕が聞いたのは、大きいキャラクターが、けっこう広いコースを跳んだりはねたりする、そういう遊びがつくりたいということでした。

そうです。

はいはい（笑）。

それは違います（キッパリ）。

これははっきり覚えています。そのとき、僕と手塚と中郷（俊彦）さん^（※5）の３人で会議をしていたんですけど、ホワイトボードに全部のコースの長さを描いて、「もっと先が見えへんかな」とか話していたんです。

そうです。そこで、画面をもっとうしろに引いたら、コースの先が見えるようになるんですけど、すると「マリオがちっちゃくなるよね」と。で、そのときに中郷さんが言ったんです。「ちょっと待てよ・・・。ちっちゃなマリオを出すのもおもしろいんやないか」と。

そうなんです。しかも、ちっちゃいマリオが敵に当たると、それでおしまいになってしまうんですけど、大きいマリオが敵に当たっても、ちっちゃくなるだけで大丈夫なようにしようと。それって新しい仕組みになるし、そういうことが、そのホワイトボードの会議で一気に決まっていったんです。

そうです（笑）。

最初から大きいものを触るより、まずちっちゃいものを触って、そのあとに大きくなったほうがうれしいですし、そのほうが手ごたえがいいんです。（手塚さんに）そういうことはすぐに決まっていったよね。

そうでしたね。

で、ちっちゃいマリオが大きくなるので、『スーパーマリオ』という名前にしたというわけなんです。

はい。

その前に出た『スーパーマリオ２』^（※6）が、手塚のディレクターデビュー作だったんです。で、それがうまくいったので、今度は本格的に新作をつくろうという話になりました。

初代のプレッシャーというよりは、「ちゃんとつくらなきゃ」みたいな・・・。というのも、うまくまとめることができなかったんです、わりと長いこと・・・。

中郷さんには怒られるしね（笑）。

怒られるし（笑）。

最初は真横から見た絵ではなくって、俯瞰視点の絵をつくっていたんです。

そうです。だけど、うまくできなかったんです。

「ちょっと上から見せたいんです」と言うんです。けど、もともと『スーパーマリオ』というゲームは、自分が地面に乗ったか、乗らないかを、ギリギリで極めるゲームなんです。なのに、ちょっと斜め上の視点にすると、地面との距離感がつかみにくくなってしまうんです。だから、手塚には「絶対に苦労するよ」って言ったんです。

・・・はい（苦笑）。なので、途中で真横の視点にしたんですけど、実は製品版には、俯瞰視点でつくっていたときの名残が・・・。

残ってますよね。

そうです。

『２』は、初代『スーパーマリオ』の難易度やステージ構成を変えてつくりましたけど、同じ手はもう使えませんし、全体を変えようと思ったんです。見えかたも含めて。

そうです。

マリオの顔もずいぶん変わりましたよね。目が帽子から１ドット離れたので、かわいらしい感じになりましたし。

初代のマリオは、目と帽子がくっついていましたから、そういう見た目も変えようと思ったんです。

はい。しっぽマリオって、無理矢理な感じもするんですけど、これもすごく悩んだんです。そもそもマリオにタヌキっていいのかな、とか・・・。

ボタンを押すとマリオがくるっと回って、しっぽで敵を蹴散らす、という新しいアクションを入れたかったんです。

そうなんです。俯瞰視点から真横からの絵に戻したときに、うまく操作できなくなって調整に苦労したんですが・・・。空を飛ぶのは、初代からやりたかったアイデアとしてあったので、しっぽマリオは両方できるようになりました。

なので、しっぽマリオはわりと早い時期からあって、それにカエルマリオとか・・・。

なんか、いろんなことをバラバラに実験をやっていたのを、最後になって・・・。

「どうまとめようか」という話になって、僕も入っていっしょに調整していきました。

けっこう、というか、かなり長かったです。

『スーパーマリオ２』が終わってからですから、１９８６年の春からはじめて、次の年・・・にはまだできていなくって、その次の年の春から仕上げに入って・・・。

なんか、そういう感じでした。

だから２年くらいは・・・いや、もっとです。１９８８年の春に発売しようとしていたんですけど、それでもできなくて、そこから半年延ばしたんです（笑）。（手塚さんに）ねっ！

・・・（黙ってうなずく）

やっぱりいろんなことを詰め込みたかったんです。で、「こんなことをしたい」と言いながらも、仕様上の穴がすごくいっぱいあったんです。

７、８人くらいだったと思います。

だいぶ増えました。

２、３０人？

はい、それくらいだったと思います。

マップ部屋というのがあって、細長い会議室にプログラマーがずらーっと並んで、紙を見ながら、マップのデータを打ち込むようなことを、毎日していたんですよね。

はい。

だから最後は、人海戦術でつくっていたんです。

でもサウンドは・・・僕ひとりでしたよ。

（笑）

いえ、テーマ音楽の「地上のＢＧＭ」にけっこう苦労しまして・・・。

初代の『スーパーマリオ』から、どういうふうに変えたらいいのかって・・・。

もともと初代の『スーパーマリオ』の曲をつくったときは、ジャンルにこだわらずに、ゲームを実際に触りながら、それに合うような曲をつくったんです。ところが、たくさんの人に聴かれるなかで、「ラテンぽいね」とか「フュージョンぽいね」とか言われるようになって、「じゃあ『スーパーマリオ３』は何でいこうかな」みたいな・・・。

ええ。みんなから「レゲエだろう？」とか言われたりしましたし（笑）。そのように、ジャンルから曲をつくるという発想から入ったために、いろんな悩みが生まれて・・・。

なので、「地上のＢＧＭ」は２曲つくったんです。それで完成する直前に、この２人にその２曲を聴いてもらって、どっちにしようか、という相談をしたくらいなんですね。なので、けっこう苦労しましたね、『スーパーマリオ３』の曲づくりは。

同じファミコンでも、これだけ音が違う、ということがわかっていただけると思いますので、ぜひ聴き比べてほしいですね。

もともとファミコンには、特別なサンプル音源があったのですが、たくさんのメモリーを必要とするので使えなかったんです。ところが『スーパーマリオ３』を開発する頃には、カセットが進化して、容量も増えましたので、その音源が使えるようになったんですね。そこで、パーカッションとかティンパニーの音も使えるようになりまして、初代に比べると、豪華に聞こえるような音楽になったと思っています。

そうですね。

昔遊んでいた人たちには、懐かしがりながら遊んでほしいと思います。とくに『スーパーマリオ３』は、たくさんのコースを入れたんですけど、コースがたくさんあると、クリアしたら「はい、次」みたいな遊びかたになると思うんですね。

けど、ひとつのコースだけでも、いろんな要素を詰め込みましたし、じっくりと同じコースを何度も楽しむようなこともしてほしいな、と思っています。

ええ（笑）。敵を全部やっつけてみようとか、それぞれで工夫して遊べるようなつくりになっていますので、たっぷり楽しんでほしいですね。

『スーパーマリオ３』はセーブができないことが、当時遊んだみなさんのストレスになっていて、なかには「ファミコンの電源を切らないで遊びました」という人もいたくらいで（笑）。

けど今度は、セーブが４つもできるんです。しかも３０本のゲームそれぞれで４つ。

なので、セーブを奔放に使って、あのときのストレスを発散させてほしいと思っています。

そうですね。

それは、先ほど近藤も言ったように、カセットが進化したことが、とても大きいと思いますね。

そうですね。それから、おもしろい人がどんどん出てきて、新しいことをやり続けたことも大きいと思いますね。

そうなんです。

あれからファミコン本体が売れましたからね。それに、アメリカでＮＥＳ^（※9）を発売したのは、日本で『スーパーマリオ』が出たあとでしたしね。

そうですね。僕も自身も、『スーパーマリオ』のあと、いろんな人に出会えたり、いろんな経験をすることができて、最近もAppleさんの発表会^（※10）のステージに立って、みなさんに喜んでもらえましたし（笑）。それってやっぱり、マリオというお兄ちゃんのおかげなんですよね。

（第４回は『ゼルダの伝説』です。お楽しみに）