「ニンテンドークラシックミニ　スーパーファミコン」発売記念インタビュー 第２回「F-ZERO篇」

発売後は、０.０１秒を競うタイムアタックがブームになるなど、一世を風靡した『F-ZERO』ですが、どのような経緯で開発がはじめられることになったのでしょうか。そこで今回は、当時のディレクターの清水一伸さん、メインプログラマーの西田泰也さん、そして第１回の「スターフォックス篇」に続いての登場となる、デザイナーの今村孝矢さんの３人から話を聞いてみることにしました。

それでは、清水さん、西田さん、今村さん、よろしくお願いいたします。

はい。でも、ディレクターだったんですけど、自分で絵を描いたりもしていました。

スーパーファミコンの時代は、いろんな仕事を兼任することが多かったんです。だから、ディレクターであっても、コースを一緒につくったり、マシンも一緒に考えたりしていたんですね。

『F-ZERO』の開発にとりかかったのは入社して４年目でした。

入社３年目だったと思います。

ファミコンにディスクライターというのがありまして・・・。

はい。そのサービスデータを変換するためのプログラムを担当していました。

それに、『F-ZERO』の後の話になりますけど、『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』^（※2）のタイトルのところも・・・。

そうですね。最初に『ゼルダ』のロゴが表示される前に、ポリゴンのトライフォースがくるくる回りますけど、あのプログラムも担当しました。

はい。あの頃から、将来のコア技術になるであろうポリゴンの実験をはじめていて、任天堂として初めてゲームに使ってみたのが、あのシーンだったんですね。

そうです。

当時所属していた情報開発部では、私がその第１号なんです。

ですから、『F-ZERO』は完全に内作なんです。

プログラマーは僕を入れて３人でした。

あと、背景を描いてくれた人もいて、実質８人でつくりました。

プロデューサーの宮本を入れると９人ですね。

１年目です。僕が入社したときには、『F-ZERO』のプロジェクトがすでに立ち上がっていたんです。

そうなんです。

１９８９年ですから、スーパーファミコンが発売される前年だったんですね。それで、入社後に新人が集められて、宮本から「君たちにはスーパーファミコンをやってもらうから」と言われたときは、すごくうれしかったことを、いまでもはっきり覚えてます。

そもそものキッカケは、ファミコンでつくった『ファミコングランプリ Ｆ１レース』^（※3）です。真上からの視点のレースゲームだったんですけど、その第２弾をつくったので、アメリカに行って、ＮＯＡ（Nintendo of America）のスタッフに見てもらったんです。すると、けちょんけちょんに言われまして・・・。

「こんなのはレースゲームじゃない。レーシングカーはもっとかっこいいもんだ」とか言うんです。あげくに「こんなものは売れない」とまで言われて、僕もカチンときたんです。

ええ（笑）。「そこまで言うんだったら、かっこいいものをつくってやろうじゃないか」と思いました。で、渡米したときに、たまたま大流行していたのが、映画の『バットマン』^（※4）だったんです。

ティム・バートン監督の『バットマン』ですね。ちょうど僕が入社した年に公開されたんです。

それで、アメリカ滞在中に『バットマン』のコミックなどを山ほど買い込んで、日本に帰ったんです。すると、ちょうどいいタイミングで、西田がレースゲームの実験をしていたんです。

あの当時、若いプログラマー数人に、それぞれテーマが与えられていて、スーパーファミコンでの機能の実験をやっていたんです。そのなかで私のテーマは、「モード７」^（※5）を使ったレースゲームだったんです。

そうです。モード０からモード７までありました。で、モード７は、スーパーファミコンの特徴のひとつでもある、「背景の拡大・縮小・回転」ができる機能があったんですね。

西田はそのモード７を使って、画面の下、５分の４くらいを回転させて、残りの５分の１に遠景を表示させるようなことをしていたんですけど、それを見たとき、「これや！」と思ったんです。

はい。これを使ってレースゲームをつくれば、みんなビックリすると思いました。

入社して、すぐのタイミングだったと思います。そのデモを見せてもらって、すごくビックリしたのはよく覚えていますから。

最初は清水が描いた、でっかいタイヤのクルマが走っていたんです。まるでミニカーのホットウィール^（※6）みたいな感じの。

そうそう、ホットウィール。

そこは『バットマン』の近未来の世界が念頭にあったのと、それに加えてタイヤがあると、いろいろと面倒だったんです。

タイヤがあると、それを曲げたくなったりするんですけど、あの当時は技術的に難しかったんです。

そもそもクルマの絵は、僕が１台１台、ドット絵で描いていたんです。しかも、クルマをいろんな角度から見たパターンも描かないといけなかったので、それだけで膨大な数になっていたんですね。

いまだったら、「ポリゴンでつくって、回転させればいいやん」という話になるんですけど、当時はまだポリゴンが使えなかったんですよね。

いきなり増えるんです。けど、「タイヤをなくしてしまえば、絵を描かなくてもええやん」という話になりまして（笑）。

そこで、タイヤを取っぱらって、クルマを宙に浮かせればいいと（笑）。

なにしろ近未来の世界ですからね（笑）。

で、近未来の世界にしたのは、ほかにも理由があって、たとえば建物も立体で描くことができなかったんです。それで、コースを空中に浮かせて、すごく下のほうに街があることにすれば、建物の影とかも描く必要がなくなるし、というので、「近未来で行くしかない」という感じになったんですね。

そうでしたね。

それにコースのカーブも、いろいろな角度のカーブ（緩いカーブ、急なカーブなど）の絵を用意しなければならなくて、でも、端っこに丸いものを並べたらいけるんじゃないかというので・・・。

そこで丸いのを並べて、ガードビームと呼ぶことにしたんですよね。

そうなんです。丸だったら、どこから見ても丸ですからね（笑）。

しかも、少ないパーツで表現できるというメリットもあったんです。

そうですね。

そういうイメージでつくりました。

想定していたものもありましたけど・・・。

実は開発の途中までは、空中に見えない壁があったんです。

そうなんです。コースアウトもできないようになっていたんですね。

ああ、ありましたねえ、見えない壁が・・・。

思い出しました？　僕がどうして、それを覚えてるかというと、壁があるときは、いまいち物足りないなあと思っていたんです。ところが、見えない壁を取っ払ってからは、「すごいぞ、このゲーム」と感じはじめた記憶があるんです。

そうです。コースを細かくチェックしながら、ショートカットをしていいポイントを、自分たちで決めていったんです。

爆発させようと（笑）。しかも、できるだけ派手に爆発させたかったので、できるだけでかい音を出すようにしました。

宮本の提案で、壁を取っ払ったんですけど、その結果、『F-ZERO』が化けた、というのが、僕の印象なんですね。

ロケットスタートです。

そうです。あれはもともとペナルティからはじまったんですけど、裏技のように使われるようになりまして・・・。

そもそもあれは失敗スタートなんですよね。

『ファミコングランプリ Ｆ１レース』のときは、スタート前にアクセルボタンを押すと、タイヤが空回りして、前に進めなかったんですね。そこで、「それと同じペナルティを入れてくれ」という指示を受けたんですけど、「『F-ZERO』のマシンにはタイヤが付いてないですよね？」って（笑）。

そこで、エンジンがオーバーヒートしたことにして、スタート前にアクセルボタンを押すと、エンジンがボーンと爆発して、出力もひゅーんと落ちて、あとはライバルたちに抜かされていく・・・というつもりでつくったんです。

ところが、後続のクルマが後ろを押してくれて・・・。

でも、それを見て、「これって、ありやな」と思ったんです。

そうです。そういうロケットスタートがあったほうが、より楽しんでいただけると思ったんですね。

実は、『F-ZERO』が完成してから、いろいろと考えはじめた記憶があるんです。

そうなんです。しかも、もともとはスーパーファミコンのイメージキャラクターだったんですよ、キャプテン・ファルコンは・・・。

いまの発言はちょっと戸惑ってしまいますね（笑）。

これ、社内でもほとんどの人が知らない話で・・・。『F-ZERO』の開発がほぼ終わってから、僕がいろんなイラストを描いていたら、ある人から「スーパーファミコン用にイメージキャラクターをつくりたいな。たとえば“キャプテンなんちゃら”とかどうかな？」って言われたんです。

そこで、スーパーファミコンのコントローラのボタンの色に合わせて、赤とか青とか黄色を入れたキャラクターはどうかな、ということで考えはじめたのが、そもそものはじまりなんです。

そこは・・・よく覚えてないんですよね。

実はこういう資料を持ってきたんです。清水が書いた仕様書なんですけど・・・。

そうです。『F-ZERO』だけです。プログラマーなので、私のところにすべての資料が集まってきていたんですね。

すげえ！

２５年ぶりくらいです（笑）。あ、おれの日付印や。１年ということは、平成元年・・・。

西暦で言うと１９８９年ですね。

９月６日ですから、僕は入社５か月くらいです。

で、今村が描いたキャプテン・ファルコンのイラストがこれなんです。

すごく初期に描いた絵ですね。で、実は僕も、別の資料を持ってきてるんです。

そうです。それの下書きなんです。もともとは、“キャプテンなんちゃら”からはじまったんですけど、『F-ZERO』のパッケージをどうしようか、という話になって、試しにアメコミ風に描いてみたりしたんですね。

それをＮＯＡのスタッフに見せたら、評判がすごくよかったんです。そこで、コミックを取扱説明書に載せようとか、いろんな話がバンバン進んでいったんです。

たぶんそうだったと思います。

で、このコミックには、ゲーム中では説明できなかった世界観が盛り込まれていて、しかも「スタート」という勢いがあるところで終わるのが、すごくいいなあと思いました。

入社１年目としては、僕、なかなかいい仕事をしてるでしょう（笑）。

（笑）

１年半・・・くらい？

１年半くらいでしたね。

当時は問屋さんがやっている初心会^（※7）というのがありまして・・・。

その展示会で、スーパーファミコンの発売前に、『F-ZERO』を初出展したんです。同じくローンチの『スーパーマリオワールド』が１０台くらいで、『F-ZERO』は２台くらい出したんですね。

当時のイベントはそんなもんだったと思います。で、その試遊台にものすごい行列ができて、僕は説明員をしていたんですけど、あるゲームメーカーの若手社員が、興奮しながら近寄ってきて、「これはポリゴンですかっ！？」って（笑）。

僕も同じこと、聞かれました（笑）。もちろん「いいえ、違いますよ」と答えましたけど。

そうですね。あの手のものはゲームセンターにもなかったと思いますし・・・。

はい。「これはいけるぞ」と思っていました。

そうなんです。とくにミュートシティのタイムアタックが・・・。

たとえば、丸いガードビームと、ダートの間にわずかな隙間があるんですけど、それを通り抜ける猛者がいたんですね。そういうことは理論上はできるとは思っていたんですけど、スタッフの誰ひとりとして試したことがなかったんです。

僕らはもともと、ダートはブーストで抜けるもんだと思っていたので、あれは神業のように感じましたね（笑）。

でもそのおかげで、タイムアタックがすごく流行ったのはいいんですけど、みんなミュートシティばっかり走るようになってしまって・・・。本当はいろんなコースを走ってほしかったんですけどね（笑）。

でも、数年前に、ミュートシティのタイムが更新されたらしいですね。十数年ぶりに新記録が出たということで話題になっていたと思うんですけど・・・。

かもしれませんね。というか、大いに期待したいですよね。

（第３回は『スーパーメトロイド』です。お楽しみに）