さて、ここからは『Nintendo Labo』の開発に関する話を少し掘り下げて訊いてみたいと思います。まず、河本さんと阪口さんは、最初から一緒に仕事をしていたわけではなく、開発の途中から組織が統合して一緒になった、と聞いています。どういう経緯で「『Nintendo Labo』を作ろう」ということになったんでしょうか?
まず、ぼくらが一緒のチームになる前、すでに阪口さんのほうで試作を始めていたんです。
そうですね。とりあえず、最初は1人で。そこに、あとから4人来てもらって、そのコアメンバーで「なんかやろう」ってことに。
その「なんかやろう」というのは、Joy-Conを使ってということですか?
Nintendo Switchで何かやるっていうお題しか決まってませんでした。
特に決まってないのに「なんかやろう」ですか? それはまた先の見えない始まりですね。
最初、いろいろネタ出しをした一つに、「Joy-Con 2つでハサミを作ろう」っていうものがあって。Joy-Conがこう(ハサミみたいに)動くっていうことを考えてみました。
「物理フィードバック」の話にも出てきたんですけど、2つのJoy-Conに拘束を加えて、「こういう形でしかJoy-Conが動きません」ということにすると、その値が取りやすくなるんですよ。「こう動く」という前提でプログラムを組めばいいので、すごくシンプルになるんです。ジャイロセンサーに関して、こういう使いかたは今までなかったので。
当時は、「(ハードに装着する)アタッチメントって、どうですかねぇ~」と言っていました。
そのとき、周りはなんと言っていましたか?
自分自身も含めて「ユニークだけど出口がないな~」という印象でした。
その頃は、アタッチメントを3Dプリンターで試作してもらっていたって聞いたけど・・・。
はい。でも、そういうアタッチメントをプラスチックで作るとなると、コスト面でも大変で・・・。そこまでで少し置いておいたんです。
この頃は、ハードに取りつけるものということで“アタッチメント”と言っていたんですね。
はい。そのあと、河本さんのグループに合流したときに、「アイデアを持ち寄っていろいろゲームの試作をしよう」っていう話があって。
グループ全体で、「Joy-Conのおもろいやつ」、「何かわかりやすいゲームのタネを作ろう」と言っていました。グループ内では「試作まつり」と呼ばれている取り組みです。
とりあえず、いろいろ作ってみようということですね。
はい、要は「ハードウェアをつけることでコストがかかる」とか、そういうところは一旦ぜんぶ無視して、「なんかおもろいやつ、わかりやすいやつちょうだい」って。われながらひどいお題ですけど(笑)。
そのときは、「実現性はひとまず置いておいて、なんでもやってみよう!」という話だったので、「それなら、あのアタッチメントをやってみよう」という話になりました。
ただ・・・1個、気になっていたことがあって。
なんでしょう?
Joy-Conには「モーションIRカメラ」があるんですけど、それは普通のゲームを作るには、ちょっと重いというか。
重い・・・?
なんというか・・・パワーはあるけど、扱いが難しい。
たとえば、ジャイロセンサーを使って、「Joy-Conを傾けると人型から飛行機に変形します」とかだと、普通のゲームの中にも組み込みやすいんです。でも、IRカメラを使うとなると、少し課題を感じていました。
ただ、Joy-Conのジャイロセンサーに加えてこのIRカメラも使わないと、「Nintendo Switchでしかできない、わかりやすいもの」ができないという想いもあって。
その課題というのは、どういうところだったんでしょうか?
やっぱりカメラなので、認識が安定しないということがわかっていたんです。
認識が安定しないというのは・・・?
専門的な話になるんですけど、たとえばジャイロセンサーでも、空中だとけっこう認識が難しいんですよ。
お客さんはJoy-Conをどう持つかわからないし、どう動かすかまったく予想がつかない。
だから、拘束されていることで安定して値がとりやすくなるっていう話をしていましたよね。
IRカメラも一緒で、空中で動かすとなると認識が難しいんです。
お客さんがどう動くかわからないし、カメラの視野外に出るかもしれない。距離も遠すぎるかもしれない。
そこで、IRカメラを使うときは、「箱に入れればいい」って思いました。
箱に入れてしまえば、IRカメラと、認識するべきマーカーの位置関係が決まるし、外光も入らない。
最初からずっと言ってたよね。「これは箱に閉じ込めなあかん」って。
IRカメラを箱に閉じ込める・・・?
はい。それで、最初に作ったのが、「鼻をほじる」コントローラーです。
鼻をほじる・・・!?
筒状のToy-Con試作品に指をさし込むと、そのToy-Conの中の動きを読み取ってくれるんです。
これを最初に作りました。
なんというか・・・おバカですね(笑)。
一見ふざけていますが、ちゃんとした理由がありまして・・・。
最初は、一番小さい箱を作ろうと思って。
鼻の穴が小さい箱・・・ですか。
筒の中にあるIRカメラが筒の中の動きを読み取るので、画面上の指も動く。これはデモ画面ですが、「これがうまくいったら箱でいけるんかなぁ」っていう狙いでした。
これでちょっと面白かったのが、テストプレイのとき、チームメンバーが筒に入れた指を抜いたあとで、(何かついてないかを確認しようと)指をちょっと見たんですよ。
それを見て・・・これはちょっと面白いなぁと(笑)。認識がうまくいってるから起こる説得力だと感じました。
絶対に何かつくわけがないのにね(笑)。
これの検証と並行して、「今度はめっちゃデカい箱を作ろう」という話をして、試作チーム10人くらいで作りはじめました。
その大きい箱は、何の材料で作ったんですか?
「鼻ほじ」のときは、3Dプリンターを使ってプラスチックで作っていたんですよ。ただ、それだといくら出来上がりが早いといっても、まる1日かかるんです。
だから「1回ミニマムを作ったあとは、マックスの試作をしよう」という話になったときに、「梱包材置き場に材料を探しに行こう」と。
そこで「段ボール」を拾ってきて、こんな戦車みたいなのを作りました。
ここで段ボールが登場するわけですね。・・・その箒(ほうき)みたいなものは?
これはルームクリーナー。この(足の)ペダルは穴あけパンチです。
そこに、どうセンサーがついているんですか?
Joy-Conが下に挿さっていて、中で球が上下してるんですよ。それをIRカメラで撮っているだけです。
このときから、「仕組みって、楽しいね」という話をしていました。